日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

一般講演

D 食品工学、加工、保蔵、バイオテクノロジー (Food Engineering, Process, Storage, and Biotechnology)

[3Na] 食品物性、嚥下、咀嚼機能

2024年8月31日(土) 09:00 〜 11:30 N会場 (2F N202)

座長:三浦 靖(岩手大学)、庄司 真樹(宮城大学)、長谷川 摂(あいち産業科学技術総合センター)

10:45 〜 11:00

[3Na-07] 室温で凝固しないゼラチン増粘剤の作製

*宇田川 孝子1、遠藤 輪1 (1. 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター)

キーワード:嚥下困難者用増粘剤、低栄養予防、ゼラチン、酵素架橋

【目的】嚥下困難者用増粘剤は,飲み込む力が弱った要介護者の嚥下をサポートする目的で使用される.一方で,栄養学的観点からは配合される難消化性多糖類の影響により食品の消化・吸収性が低下する可能性があり,要介護者の栄養状態を悪化させる可能性があるという課題が存在する.そこで,我々は栄養的価値を付与した増粘剤を開発するために,酵素架橋したゼラチンを増粘剤として提案してきた.この増粘剤は,45℃では嚥下困難者用増粘剤に適する粘度を示したが,室温まで低下すると粘度が大幅に高くなってしまった.これは料理が冷めた際にのどに詰まりやすくなってしまうことを意味する.そこで本研究では,幅広い温度環境に対応できるタンパク質製増粘剤の作製を試みた.【方法】ウシ由来ゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素のトランスグルタミナーゼを作用させた.この際,(1)低濃度のゼラチン溶液に酵素を反応させる系(Batch反応),(2)高濃度のゼラチン溶液に酵素を反応させて経時的に希釈する系(Semi-batch反応)の2種類の反応プロセスで架橋ゼラチン溶液を調製した.これらの反応プロセスの違いが温度に依存した粘度変化に与える影響を評価した.粘弾性は,動的粘弾性測定装置を用いて測定した.【結果】Semi-batch反応で得られた架橋ゼラチン溶液は,Batch反応のものよりも低い温度まで嚥下困難者用増粘剤に適した粘度を示すことができた.また,それぞれの架橋ゼラチン溶液のせん断速度依存的な粘度変化をみると,Semi-batch反応のものの方が既存増粘剤に似た挙動を示した(嚥下しやすいことが推測された).これらの結果から,BatchとSemi-batch反応で得られた架橋ゼラチンは性質が異なり,反応プロセスを工夫することにより,ゼラチンを用いた新たな増粘剤を開発できる可能性が示唆された.