日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムA

[SA2] シンポジウムA2:「やさいが彩る毎日のしあわせ~ウェルビーイングを産官学連携のちからで~」
産官学連携シンポジウム(産官学連携委員会・一般財団法人旗影会共催 後援:農林水産省)

2024年8月29日(木) 14:30 〜 17:15 名城ホール (1F N101)

世話人:船見 孝博(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、田中 敏治(キユーピー株式会社)

16:30 〜 16:55

[SA2-05] [産官学連携シンポジウム] 親子の心の発達を促進する親子共同野菜調理体験

*田島 信元1 (1. 白百合女子大学名誉教授・同大学生涯発達研究教育センター研究員)

キーワード:食育、親子共同野菜調理、親子関係、親子の心の発達、越境的交流

【講演者の紹介】
 田島 信元(たじま のぶもと) 白百合女子大学名誉教授・同大学生涯発達研究教育センター研究員
 略歴:東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻修士課程修了(1974年).北海道大学教育学部発達心理学講座助手(1974‐1984年)、東京外国語大学外国語学部総合文化講座心理学研究室助教授・教授(1984‐2005年)、同大学名誉教授(2005年~).博士(人間科学)大阪大学(1997年).白百合女子大学人間総合学部発達心理学科教授・同大学生涯発達研究教育センター所長併任(2005-2020年)、同大学名誉教授(2020年~)、同センター研究員(2020年~).一般社団法人 生涯発達支援研究所代表理事・会長(2022年~).

はじめに
 近年の食育基本法制定以来、日常的活動である摂食行為を介した健全な心身、豊かな人間性を育むための食育活動への興味と関心が高まっている。心理学、発達心理学領域でも、食事行為を人が生誕後、学習される文化的な行為として、生涯発達の基盤づくりに資するものととらえ(石毛,1998、原田,2008)、とりわけ心の発達、社会情動的、認知的発達への影響過程を明らかにしてきた(黒岩,田島,三木,2018)。その基本は、大人と子どもの共同行為の中で、大人が子どもに行為や産物を与える役割から、徐々に子ども自身が大人役割を取得し、逆に、行為や産物を大人に与える役割を果たすようになる「越境的交流(子どもが大人の領域に越境して、大人役割の取得・交代を体験すること)」であり、そのためのスムーズで対等な「世代間交流」を通した、発達共同体という場を形成していく過程なのである(田島,2024)。
親子共同野菜調理体験のあり方が、共有の喜びと非認知能力(社会情動的能力)を促進する!
 本報告では、日常的な越境的交流の典型である食事行為のあり方の親子の心の発達への影響過程について検証した結果(大江他、2022)をもとに議論する。とくに、親子での野菜料理の共同調理過程を取り上げるのは、野菜という食材が子どもにとって必ずしも興味をそそるものではなく(Jarpe-Ratner, et al.2016)、しばしば、大人からの強要的関りが生起しやすくなって、越境的交流が成立しにくくなる可能性を考えたからである。
 方法としては、最近1年間の親子共同野菜調理体験群に対し、調理行動時の越境的交流状況と親子の社会情動的、認知的能力のあり方について母親(n=420)への質問紙調査を行い、野菜料理以外の一般の共同調理体験群(n=133)および共同調理体験無し群(n=240)の場合と比較した。その結果、子どもの発達段階(年少児~小学校高学年、男女ほぼ均等割付け)を越えて、野菜料理の共同調理体験をした群は、子どものコミュニケーション力、自立的思考・行動、親の協調力、受容的育児力、さらに親子の満足感といったスムーズで対等な越境的交流活動と満足感(自己肯定感)において他群より統計的に有意な高いスコアを示した。その上、子どもの発達的行動(自己統制力、自己主張力、協調性、自己肯定感、論理的・集中的態度、好奇心旺盛)および、母親の発達的行動(応答、自己肯定感、食卓の交流の積極性と効用感、食事準備の積極性)においても他群にくらべ高スコアを示した。最終的に、野菜摂取量においても、野菜調理の親子共同調理体験をした子どもは他群に比べ高スコアを示した。
親子共同野菜調理体験は、生涯発達の基盤をつくる!
 以上の結果は、乳幼児からの発達が、親子や仲間との越境的交流を通した世代間、仲間間での発達共同体づくりの成果であり(田島,2024)、生涯を通した文化的学習の支援の重要性を示唆している。