日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムB

[SB2] シンポジウムB2:「地域食品研究のエクセレンス」
(全国食品関係試験研究場所長会・農研機構食品研究部門・産官学連携委員会共催)

2024年8月30日(金) 09:00 〜 11:45 A(S2)会場 (3F N321)

世話人:御幡 弘明(福岡県工業技術センター生物食品研究所)、岡留 博司(農研機構 食品研究部門)

10:55 〜 11:20

[SB2-05] 漬物の高付加価値化のための研究開発

*阿久津 智美1 (1. 栃木県産業技術センター)

キーワード:漬物、高齢者、咀嚼、たくあん、ユウガオシロップ漬

【講演者の紹介】
 阿久津 智美(あくつ さとみ) 栃木県産業技術センター 食品技術部長 
 略歴:1993年茨城大学大学院農学研究科修士課程終了,同年栃木県庁入庁.2024年より現職.
 研究分野:食品加工
 著書など:「日光のたまり漬け,日光巻き」,日本の伝統食品事典,102-105,朝倉書店 (2007).「γ-アミノ酪酸を富化させた抗メタボリック二条大麦素材の開発」,New Food Industry,Vol.52,No.10,21-27 (2010).など

 栃木県の野菜漬物出荷額(2021年)は全国4位であり,しょうが,らっきょう等を原料とした漬物,中でも酢漬やたまり漬等が多く製造されている.一方,全国的には漬物の生産量は2004年頃から減少傾向となり,その後横ばいとなるものの,以前の6~7割にとどまっている状況にある.栃木県産業技術センターではこのような消費の変化等に対応し,県内企業の競争力を高めるため,様々な研究開発や技術支援を行ってきた.その内容は漬物品質研究会など品質向上に向けた支援から,県産原料の評価,テクスチャーやしょうがジンゲロール等機能性成分に関する研究,さらには未利用資源の活用(例えばなす下漬液からのナスニンの回収)等と多岐にわたる.ここでは,高付加価値化を目指し取り組んだ研究,高齢者用食品の改良開発(若年者と高齢者の漬物咀嚼特性)と漬物製造技術を活用したシロップ漬の開発について紹介する.

1 高齢者用食品の改良開発(若年者と高齢者の漬物咀嚼特性)
 県産漬物(しょうが・たくあん・なす・らっきょう)について,高齢者と若年者の咀嚼特性の違い等を官能評価,テクスチャー測定,筋電位測定等により評価したところ,高齢者は若年者と比較し,咀嚼回数が多く時間をかけて食べており,中でもたくあんは,最も咀嚼負担のかかる漬物であることがわかった1)2).そこで,たくあんについて皮の加工(皮なし,皮に切れ目)を行い,無加工と比較した結果,咀嚼特性値(筋活動時間,筋活動量等)に違いが見られたことから,皮加工は咀嚼負担の軽減に効果があると考えられた3)

2 漬物製造技術を活用したゆうがお果実シロップ漬の開発とヨーグルトへの応用
 かんぴょうは,栃木県が全国収穫量の99.5%を占め(令和2年産),本県を代表する特産品の一つである.その原料であるゆうがお果実の新たな用途としてシロップ漬の検討を行った.一般的な製法のシロップ漬は,加熱により軟らかくなり煮崩れしやすいのに対し,漬物製造技術を活用したシロップ漬(塩蔵脱塩後シロップ漬製造法)は破断応力が大きく,硬く歯ごたえがある食感となった4).さらに,このシロップ漬を活用したヨーグルト製品を開発し,「夕顔の実ヨーグルト」が商品化となった.

1)「高齢者用食品の改良開発と機能性評価」,栃木県産業技術センター研究報告,No.3,94-99 (2006).
2)「筋電位計測による若年者と高齢者の漬物咀嚼特性解析」,日本食品科学工学会誌,Vol.56,No.1,14-19 (2009).
3)「皮を加工したたくあんの力学および咀嚼特性解析」,日本食品科学工学会誌,Vol.57,No.6,232-237 (2010).
4)「ユウガオ果実の食感を活かしたシロップ漬の開発とヨーグルトへの応用」,栃木県産業技術センター研究報告,No.11,48-51 (2014).