日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムB

[SB4] シンポジウムB4

2024年8月30日(金) 09:00 〜 11:45 B(S3)会場 (3F N322)

世話人:下山田 真(静岡県立大学)、中野 祥吾(静岡県立大学)

09:40 〜 10:15

[SB4-02] AIを用いた植物工場でのプレハーベストにおけるトマト品質予測や制御

*筧 雄介1、上野 広樹1、山崎 敬亮1、谷川 真由美1、安藤 聡1、今西 俊介1、磯崎 真英1 (1. 農研機構野菜花き研究部門)

キーワード:計画生産、品質、園芸、環境制御、トマト

    【講演者の紹介】筧雄介(かけいゆうすけ)2011年東京大学農学生命科学研究科にて農学博士号取得,同年JST学術振興会研究員,2012年横浜市立大学木原生物学研究所特任助教,2018年農業・食品産業技術総合研究機構野菜花き研究部門野菜病害虫・機能解析研究領域および同機構農業情報研究センター併任主任研究員を経て,2021年より農業・食品産業技術総合研究機構野菜花き研究部門施設生産システム研究領域主任研究員

    トマトの糖度,鮮度,棚持ち性などの品質は,流通販売におけるトマト果実の価値を定義する重要な指標である.これらの品質を制御するための処理方法として,ポストハーベストにおける短時間熱処理等が報告されている.一方,トマト育種の分野では品質に関わる遺伝子が多数報告されており,それらの遺伝子の機能を調整することで品質向上を目指した育種が行われてきた.特にトマトの糖度については,乾燥ストレスを与えることでプレハーベストの段階で高めることができることが古くから知られている.これらの研究の間に密接な関連性があると想定し,我々はプレハーベストにおける遺伝子の働きが品質に与える影響を研究してきた.
    我々はこれまでに,栽培環境が植物の生育および収量に与える影響を解析することに加えて,果実品質や果実遺伝子発現に与える影響を大規模に収集してきた.果実品質に関しては近赤外光を用いた非破壊推定により多くの項目について迅速に収集できるようになってきた.栽培環境情報の大部分はセンサーによる自動収集を用いている.施設栽培トマトの栽培技術の進歩は大きな転機を迎えており,IoT環境制御機器や安価なセンサーが次々と開発・導入されている.これらを活用することで,単位面積当たり収穫量を飛躍的に増加させる技術が発展中である.特に,センサーや制御のデータは容易に大規模に収集できるようになっており,植物の生育との関係を調べ,AIなどの活用により栽培環境制御を全自動にすることが現実味を帯びてきている.
    これまでにも,天候などの環境データや生育調査データを用いた生産予測モデルによる生産性向上の研究が行われてきた.しかし,トランスクリプトーム(遺伝子),メタボローム(代謝産物)などの生体分子オミクスデータを栽培モデルに応用する試みは,イネやトマトにおいて限られた報告しかない.しかし,トランスクリプトーム解析は,全遺伝子発現を一度に網羅的に測定できることから,表面上観察できないあらゆる環境条件への応答や,植物の生育状況や品種特性を鋭敏に反映する可能性を秘めたデータである.これを,従来の環境-生産モデルと組み合わせることで,生産モデルのさらなる汎用化や精度の向上,制御対象品質項目の拡大が期待できる.
    我々がこれまでに収集した,オランダや日本のトマト品種のゲノムデータ,栽培環境データ,植物生育データ,果実品質データからなる環境―農業形質関連性ビッグデータを活用して果実品質制御の鍵となる生体分子を特定し,その変動を指標としたモデルを構築した.モデル化においては既存の植物科学の知見(共起情報)を評価関数に取り入れ,AI(機械学習)と組み合わせている.これにより,繰り返しの少ない農業データから, 汎用的にモデルに用いることのできる因子を抽出するシステムを開発している.また,このモデルに基づいて生育を制御できる「果実品質事前設定ツール」を開発した.今後,このツールを用いることで,トマトの品質の向上と収量も合わせた制御の自動化を図ることが期待される.さらに,需要予測と組み合わせて計画生産に用いることを試みている.