[CC] ARDS患者の人工呼吸器離脱支援
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【はじめに】呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome;ARDS)は、ICUにおいて、依然、死亡率は30~45%と高く、長期の罹患率が高い。これらの患者の呼吸補助は、適切なガス交換を保証し、人工呼吸器関連肺傷害(Ventilator Induced Lung Injury:VILI)のリスクを最小限にするために最適化されなければならない。本邦においても、ARDS診療ガイドライン(2016)が発刊され、肺保護戦略やオープンラングアプローチ、中等症・重症例に対する腹臥位療法や筋弛緩薬の使用などが推奨されている。また、SATやSBTを用いた人工呼吸器離脱プロトコルが推奨されてはいるものの、成功基準を満たさずに人工呼吸器離脱困難に至る重症例も存在する。今回、重症ARDSを呈した人工呼吸器離脱症例に対して回復の転機が図れた事例を紹介し、ARDS患者の人工呼吸器離脱支援について考えたい。【症例提示】症例:71歳、男性 診断名:ARDS(左肺炎)家族状況:妻と二人暮らし、長男、次女ともに結婚しており別居ADL:自立 趣味:グランドゴルフ、畑仕事既往:右下葉切除術後(右肺がんStage4) 71歳;胸膜癒着術現病歴:肺がんに対する術後化学療法待機中に呼吸状態が増悪し、左肺炎のため緊急入院となる。その後、呼吸不全、敗血症のため、ICUに緊急入室となった。人工呼吸器管理(FIO21.0、PEEP10cmH2O)となり、重症ARDSと診断された。経過:覚醒にともない首振りなどの体動、過剰な吸気努力、全身発汗が見られたため、深鎮静管理を行い、腹臥位、APRV、ステロイドパルス療法、筋弛緩薬が開始となった。入室8日目、気管切開の適応について、回復の見込みは保証できないことや呼吸状態が改善したとしても化学療法は継続できないことが家族に説明された。その結果、「やらぬ後悔よりもやる後悔を選択したい。できる限りのことはやってあげたい」と意思決定され、10日目に気管切開術を実施した。その後、緩和ケアチームも交え、本人及び家族の精神的支援を行いつつ、多職種チームで個別リハビリプログラムを作成した。その結果、入室22日目に人工呼吸器離脱、入室27日目に気切チューブ抜去に至る。入室29日目、酸素カニュラ1L/min使用下で一般病棟に退室となった。しかし、ICU-AW(MRC42/60)を呈し、介助なしの立位が目標となっている。【考察】ARDS患者の死亡率は高い上に、治療が奏功したとしてもPICSの発症率が高く、QOLが低下する可能性がある。今回、重症ARDSを呈した患者にできうる限りガイドラインを遵守しながらも、回復の兆しが見えない状況に直面した。どのような治療方針が患者にとって最善かについて、家族を含むチームでその都度話し合い、試行錯誤した結果、幸いにも人工呼吸器離脱を図れたと考える。よって、ARDS患者への人工呼吸器離脱支援は、ガイドラインを臨床にどのように活用するか、患者にとって最善の治療は何かを多面的に考えることが重要である。