第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(ランチョン)

[LS5] 教育セミナー(ランチョン)5

敗血症性ショックと脂質メディエーター

2019年3月1日(金) 12:40 〜 13:40 第5会場 (国立京都国際会館1F Room D)

座長:垣花 泰之(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 救急・集中治療医学分野)

共催:東レ株式会社/東レ・メディカル株式会社

[LS5-1] 脂質メディエーター:分子的特性と炎症制御に関わる生理的機能

篠原 正和 (神戸大学大学院医学研究科 質量分析総合センター・疫学分野)

 日本人の食生活に占める脂質摂取の割合は増加し、食生活習慣の西洋化が固定しつつあり、予防医学の観点から、脂質の「量」のコントロールのみならず、その「質」のコントロールの重要性が注目を集めている。
 脂質の「質」は、構成成分である脂肪酸の「質」によって規定される部分が多い。脂肪酸の「質」は、4つのパラメーター、①脂肪酸中の二重結合の有無=「飽和と不飽和」②脂肪酸メチル末端から数えて、どこに1つめの二重結合が存在するか=「ω分類」③脂肪酸の長さ=「鎖長」④二重結合の角度=「シスとトランス」によって表現される。脂質の三大機能として①生体膜の構成成分となること②エネルギー源となること③シグナル分子となることが知られており、脂肪酸の「質」の違いによって様々な影響を受けることが知られつつある。これまでに、魚油に多く含まれる脂肪酸が動脈硬化性疾患の予防に有用であることや、マーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸が動脈硬化性疾患の増悪に関与すること等の重要なメッセージが発信されてきた。
 最近、脂肪酸からシグナル分子「脂質メディエーター」が産生され、炎症制御に関わる因子として研究が進められている。炎症反応は、外的傷害に対する生理的な応答反応であるが、適切に制御されなければ慢性炎症に結びつく。従来、炎症の収束は炎症性刺激の減弱に伴い、受動的に進行すると考えられてきた。近年、新たな「炎症収束性脂質メディエーター」が発見され、リポキシン・レゾルビン・プロテクチン・マレイシンという大きく4つのファミリーが報告された。生体は、これらの炎症収束性脂質メディエーターを用いて、①好中球貪食能を高める②マクロファージを炎症部位へ遊走させ、M2タイプへの分化を促進する③マクロファージのエフェロサイトーシス(炎症収束性の貪食能)を高める、という「能動的」炎症収束プロセスを実行していることが報告された。すなわち、炎症収束プロセスは、特定の細胞群の活性化を伴うものであり、免疫抑制とは異なる概念である。
 様々な基礎実験動物モデルを用いた解析によって、炎症増悪期・慢性炎症状態では「炎症性脂質>炎症収束性脂質」となり、炎症収束期においては「炎症性脂質<炎症収束性脂質」となることが示されてきた。しかし血液サンプルを用いた臨床研究においては複雑な結果を示す。敗血症で集中治療室に入院した症例において、入院後1ヶ月以内の死亡を免れた症例で増加傾向にあった代謝物として、炎症収束性リポキシン群の他に、炎症性トロンボキサン群が報告されており、ヒト病態においては「炎症性脂質メディエーター」=「悪」と単純化することは難しい。今後、これら脂質代謝物がどのようにヒト病態に関わっているのか、bench to bedsideの研究が求められている。