第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

岩月賢一記念講演

[ML] 岩月賢一記念講演
集中治療と医療機器イノベーション

2019年3月2日(土) 11:20 〜 12:20 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:織田 成人(千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学)

[ML] 集中治療と医療機器イノベーション

宮坂 勝之 (聖路加国際大学 大学院 周麻酔期看護学)

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1969年 信州大学医学部卒
1970年 国立小児病院麻酔科
1973年-1977年 カナダ・米国留学
1999年 トロント大学 AW Conn 集中治療学教授
2002年 国立成育医療センター手術集中治療部長
2006年 長野県立こども病院
2010年 聖路加看護大学特任教授
2018年 聖路加国際大学名誉教授 現在に至る
日本集中治療学会名誉会員 (2012年)専門分野は、小児麻酔、小児集中治療医学 
本講演の冠の岩月賢一先生が東北大学に集中治療部を創設してから半世紀、本総会のテーマも「次の世代のために」とされ、集中治療は歴史を語るだけでなく生かす時代である。

Intensive Careには、医療資源を集中して徹底的にという意味もあるが、集約という意味も込められている。1960年代の日本のICUは中央監視室などと呼ばれ、台数が限られたモニターや人工呼吸器を集約する場所で、集学的に重症患者を治療するCritical Careという発想は乏しかった。生命維持に関わる医療機器の取り扱いは麻酔科医に限られ、聴診器も医師しか使用しなかった。当時の厚生省のICU設置基準も手術室や回復室の延長線上にあり、機器や設備に比して人的体制は緩やかだった。その結果、主治医科の医療の一部を麻酔科医が行う、チーム医療とはほど遠い状態を作りだしたが、皮肉にも、集中治療医が直接医療機器を操作する、先進国の中では希有な状況が続くことになった。

医師自らが医療機器を多く扱う日本のICUは、医療機器開発改良の機会に日常的に遭遇できる場所である。使用方法が画一的である医薬品と異なり、現場の事情に合わせた使用方法が求められる医療機器など技術製品の開発には臨床現場と開発技術者との接点が必要とされる。日本は自動車やロボット産業では高い技術力で世界をリードする中、医療機器は大きな遅れをとっている。体動に影響されないパルスオキシメータ、非挿管患者用カプノメータ、小型在宅用人工呼吸器の開発など、日本から世界に広まった技術はある。しかし、日常的に使用される機器の大半は外国製品であり、日本の医療機器の世界シェアは10%にも届いていない。

医療機器を開発し、企業が商品化するためには、継続教育や保守も含めた市場経済性の問題、医療界の構造的な問題もあるが、現場医師が問題意識を持たない限り、この状況は変わらない。医療機器イノベーションは、卓越したものづくり技術や独創的なひらめきに依存するものではなく、確実な総合戦略の中でこそ生まれるというのがBiodesignなど近年のデザイン思考の考え方である。

私が関わってきた小児集中治療は、用いられる医療機器の殆どが成人用である中で、小児の使用では常に創意工夫に迫られた。機器類の保守修理、血液ガス検査は医師の仕事であり、その結果多くの開発・改良案件に直接関わることになった。公務員の医師であり、特許権や見返りを請求せず、学術的な評価も伴わず、企業判断での開発中断リスクもあったが、金銭的リスクを負うことなしに医療機器開発に関与でき、臨床家としての使命感は達成できた。

医療機器が充実した近年、医師は一使用者の役割に留まり、引き換えに臨床医と開発技術者の距離が大幅に乖離した。この状況の改善には、シミュレーションセンタの活用など、時代に即した対応が必要である。講演の中では、そうした例を示しながら、集中治療医の医療機器イノベーションへの積極的な参画を促したい。