第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

循環 研究

[O104] 一般演題・口演104
循環 研究05

2019年3月2日(土) 14:00 〜 14:40 第13会場 (国立京都国際会館1F Room F)

座長:時田 祐吉(日本医科大学付属病院循環器内科)

[O104-4] 大動脈解離術後の気管切開症例とリスク因子についての検討

中村 美穂, 遠山 直志, 久保 達哉, 余川 順一郎, 佐野 宏樹, 佐藤 康次, 野田 透, 岡島 正樹, 谷口 巧 (金沢大学附属病院 集中治療部)

【背景】
高齢化社会が急速に進み、積極的な社会活動を行う高齢者も多く、心臓大血管手術の適応年齢は拡大している。手術成績や術後経過に大きく遜色がないとする報告もあるが、合併症や認知機能低下により、予期せず術前よりも日常生活動作が落ちる症例も少なくない。中でも大動脈解離の頻度は高く、致死的で脳梗塞などの合併症も多い。医療経済の破綻や健康寿命の延伸が社会的に重要となる中、本疾患での入院期間の延長や日常・自宅への復帰に影響を与える気管切開症例の検討を行うことは重要と考えた。
【目的】
術前後の認知機能の低下(脳障害の既往、術前の意識障害、ICUせん妄、脳梗塞発症)が術後大動脈解離症例の抜管困難に関連すると仮定し、気管切開を要した群と要さなかった群を比較検討することで、気管切開に関連する因子を明らかにすること。
【方法】
2016年6月から2018年6月までの2年間で、当院ICUに術後挿管入室した大動脈解離の症例を対象とし、気管切開を要した群と要さなかった群を比較検討した。後ろ向きコホートで診療録を使用した。主要評価アウトカムは気管切開術の施行とし、術前後の認知機能低下(脳障害の既往、術前24時間の意識障害、ICUせん妄、脳梗塞発症)、重症度(APACHE II, SOFAスコア)、呼吸評価(Rapid Shallow Breathing Index/RSBI、呼吸数)、手術合併症(声帯麻痺、新規透析導入)等の関連を検討した。t検定、カイ二乗検定を使用し、有意確率は5%未満とした。
【結果】
観察期間中にICUに入室した大動脈解離80例のうち、術後挿管入室は31例で、全例がStanford Aであった。経過中に気管切開術を必要とした症例は5例であった。気管切開術を要した群(5例)と要さなかった群(26例)のリスク因子の検討を行った。経過中の脳梗塞発症(80%, 19.2%; p=0.017)や術前意識障害(60%, 7.7%; p=0.020)が気管切開術の施行と関連し、APACHE II(19.4, 20.2; p=0.681)やSOFA(8.6, 8.4; p=0.873)スコアといった重症度や一般的に抜管困難を予測するとされるRSBI(52.0, 43.7; p=0.604)は関連を認めなかった。また脳梗塞や声帯麻痺が単独で発症した症例(80%, 19.2%; p=0.017)と比較し、両方発症した症例(60%, 3.8%; p=0.008)はより抜管困難となった。
【結論】
重症度や呼吸状態よりも周術期の意識障害や声帯麻痺が気管切開術の必要性と関連した。ただしいずれかの発症のみでは気管切開を要しない症例もあり、リハビリテーションの効果が期待される。