[O12-1] エピジェネティクス解析を用いた急性呼吸促迫症候群(ARDS)の病態解明
【背景】ARDSは長年、集中治療分野における解明・解決すべき疾患のひとつとして知られてきた。臨床的には高度な炎症が肺胞隔壁の透過性を亢進することにより生じる非心原性の肺水腫とされ、2016年には本邦においてもARDSガイドライン(ARDSGL)が発刊されたが、その発症に伴う詳細なメカニズムが未解明であることが示されている。また同じARDSの中でも重症度には個体差がある。なぜ個体差が生じるのかは結論が得られていないが、近年注目されているDNA 塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現であるエピジェネティクスが、この重症度に関与している可能性があることに我々は着目した。エピジェネティクスを担う機構であるヒストンメチル化蛋白のひとつ、Setdb2は炎症との関連が過去の研究で示唆されており、今回はARDSにおけるSetdb2の役割について研究することとした。【目的】ヒストンメチル化蛋白Setdb2 はARDSの重症化に関与している。【方法】研究デザインは基礎研究であり、対象はマウス(野生型マウス(WT)とSetdb2ノックアウトマウス(KO ))とした。KOは、マクロファージ特異的にSetdb2をノックアウトしたマウスである。介入としてはマウス気管内へのリポポリサッカライド(LPS)投与とし、先行研究を参考にARDSモデルを作製した。主要評価アウトカムとして、組織変化(肺)、気管支肺胞洗浄(BAL)による好中球とマクロファージの比率変化、炎症性サイトカイン(iNOS、IL-1β、IL-6、TNFα)の増減(PCR法を用いる)を時間経過とともに測定し、WTとKOで比較し解析した。【結果】本研究では、LPS投与6時間後での主要評価項目の解析を行った。組織変化についてはWTとKOで明らかな差は認められなかったものの、BALではLPS投与後にKOでマクロファージの有意な上昇が認められた。また炎症性サイトカインもLPS投与後早期にKOで上昇している傾向が認められた。【結論】ヒストンメチル化蛋白Setdb2はマウスでのARDSの増悪に関与していることが示唆された。