[O5-4] 心臓手術後の血糖管理の改定が低血糖と医療関連感染に与えた影響
【背景】術後高血糖は医療関連感染の発生率を高め、低血糖は心血管イベントや死亡率を高めるため、周術期血糖管理の重要性が指摘されている。2001年に強化インスリン療法の有益性が報告されたが、2009年以降は重症低血糖の有意な増加から、目標血糖値は140-200mg/dlが至適との報告が相次いだ。当院では150mg/dl以下を目標に血糖管理していたが、低血糖の発症が10.9%もの症例に認められたため、2016年にプロトコールを改訂し、200mg/dl以下を目標に変更した。【目的】新プロトコールの導入が、低血糖の発生と医療関連感染の発生にどのような影響があるか検証した。【方法】対象は心臓胸部大血管手術後にICUへ入室した患者のうち、入室日が2013年1月1日から12月31日で、血糖管理に旧プロトコールを使用したO群と、2016年6月1日から2017年1月16日の間に入室し、新プロトコールを使用した患者N群とした。プロトコールは、新旧共にインスリン皮下注射(以下SC)を基本としており、ICU入室時から1~4、6、8、12時間後に血糖測定を行い、スライディングスケールを用いてSCを行った。新プロトコールでは、持続静脈注射(以下DIV)導入の判断基準を下げ、201mg/dl以上が3回持続した際と、高血糖のリスクが高いと判断された症例とした。80mg/dl以下を低血糖と定義した。【結果】対象数はO群183名とN群214名。低血糖はO群20名(10.9%)、N群1名(0.4%)で見られ、低血糖発生率は新プロトコールの導入により有意に(p<0.001)低下した。DIV管理を行った症例は、O群21名(11.4%)、N群92名(42.9%)であった。感染は縦隔洞炎が0.5%→1.8%、敗血症が1.6%→7.0%、尿路感染(以下UTI)が5.4%→7.0%(O群→N群)と、N群で多くなった。N群では、DIVを要した症例ではそれ以外と比較し、有意にUTIが多かった(p=0.02)。その他の感染では有意差は認めなかった。DIV管理の症例では、入室6時間後の血糖値は218±51.3mg/dlと、200を上回っており、目標血糖に到達するには、平均で8時間を要していた。【結論】低血糖発生率は低下し、安全性は高まったものの、医療関連感染発生率は上昇し、プロトコールの再見直しの余地がある。術後急性期の高血糖と尿路感染の関与が示唆されるため、今後詳細を検証し対策を行っていく予定である。