第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

新生児・小児 症例

[O55] 一般演題・口演55
新生児・小児 症例02

2019年3月1日(金) 11:10 〜 11:50 第13会場 (国立京都国際会館1F Room F)

座長:松井 彦郎(東京大学医学部附属病院小児科)

[O55-3] 乳児メトヘモグロビン血症の一例

清水 薫, 西村 奈穂, 林 健一郎, 中川 聡 (国立成育医療研究センター)

【背景】乳児早期のチアノーゼの原因としては呼吸器疾患や先天性心疾患がほとんどである。血液中のメトヘモグロビンは正常でも1-2%存在するが、酸素運搬能がなく15-20%以上と増加するとチアノーゼを呈する。小児ではメトヘモグロビン血症の原因として先天性と後天性があり、後天性として硝酸イオンの過剰摂取、薬剤性、消化管疾患などがあげられる。今回下痢による乳児メトヘモグロビン血症を経験したので報告する。【臨床経過】生後1か月女児、体重2.9kg、21 trisomyが基礎にある。陥没呼吸および著明なチアノーゼを認めたため、呼吸器疾患もしくは循環器疾患が疑われICU入室となった。胸部単純写真では異常陰影を認めず、心エコーでは7mmの心房中隔欠損を認めたが、肺高血圧の所見はなく左右シャント血流のみであった。入室時の血液ガス分析(酸素投与下)ではpH 7.27, PaCO2 26.9mmHg, PaO2 234mmHg, HCO3- 15.2mmol/L, BE -8.8, MetHb 24.7%, Lac 1.0mmol/L、tHb 7g/dLと代謝性アシドーシスおよび血中メトヘモグロビンの上昇、貧血を認めた。メトヘモグロビン血症と診断し、下痢に対しては輸液、絶食、呼吸窮迫症状に対しては鼻カニュレによるハイフローセラピー導入、貧血に対しては赤血球輸血を行った。その後下痢症状は改善し、血中メトヘモグロビンは徐々に低下し24時間以内にはほぼ正常化し、チアノーゼも改善した。救済薬であるメチレンブルーの投与は行わなかった。経過中に血中メトヘモグロビン上昇はなく再発は認めなかった。児は母乳と人工乳の混合栄養であり、水様下痢が続いており体重増加不良も認めていた。本人・母の薬剤摂取歴はなく、また母親の井戸水や葉物野菜など硝酸イオンの過剰摂取を疑う病歴もなかった。【考察】新生児や乳児では胃内のpHが高いため硝酸塩から亜硝酸塩が生成されやすく、胃腸炎などによる腸内細菌叢の変化もこの反応を助長するといわれている。本症例では二次性のうち下痢によるメトヘモグロビン血症が最も考えられ、貧血の存在も病態増悪に寄与していたと考えられた。メトヘモグロビン血症では診断や治療の遅れによって致死的な経過をたどることがあるため、乳児期のチアノーゼでは呼吸器疾患や循環器疾患を否定すると同時にメトヘモグロビン血症の可能性を考慮し血液ガス採取、詳細な病歴聴取が必要である。【結論】乳児期のチアノーゼ性疾患の鑑別としてメトヘモグロビン血症も念頭に置く必要がある。