[P13-5] ICUでの気管挿管における有害事象の検討
・背景重症患者に対する集中治療室(ICU)での気管挿管手技は、予定手術患者に対するものと比較して有害事象が発生する可能性が高い。当院ICUでは挿管操作を麻酔科医が施行している。より安全な挿管操作を模索するために、当院ICUおいて挿管を施行された患者に生じた有害事象について後ろ向きに検討した。・病態定義1.挿管前低血圧;収縮期血圧≦90mmHg2.挿管前低酸素血症;SpO2≦80%3.挿管時低血圧;収縮期血圧≦65mmHgまたは収縮期血圧≦90mmHgが30分以上継続、あるいは挿管前収縮期血圧≦65mmHgの場合には収縮期血圧20%以上の低下4.挿管時低酸素血症;SpO2≦80%または挿管前SpO2が80~90%の時に10%以上のSpO2低下・方法対象は2016年7月から2018年8月の間に、当院ICUに入室した1634症例中、入室中に気管挿管が行われた患者98例。患者背景、挿管前低血圧と挿管前低酸素血症の有無、操作時の鎮静剤・神経筋遮断薬・オピオイド使用の種類と有無、挿管時有害事象発生(挿管時低酸素血症、挿管時低血圧、挿管操作後5分以内の心停止)について診療録により情報収集し、後ろ向きに検討した。統計はχ二乗検定、ロジスティック回帰分析を行い、p<0.05を有意差ありとした。・結果98例(男性62例)の平均年齢は65.9歳、平均BMIは21.7、ICU入室時の平均APACHE2スコアは28.7であった。挿管時使用した鎮静剤はプロポフォール55例、ミダゾラム22例、ケタミン3例、チオペンタール1例で、鎮静剤非使用症例が17例あった。オピオイドは39例(フェンタニル38例、塩酸モルヒネ1例)に使用され、神経筋遮断薬としてロクロニウムが81例(82%)に使用されていた。挿管時有害事象として、13例に重度低酸素血症(13%)、25例に重度低血圧(26%)、2例に心停止(2%)が発生した。鎮静剤として使用頻度の高かったプロポフォール使用例、ミダゾラム使用例と鎮静剤非使用例を比較すると、挿管前低血圧症例では鎮静剤非使用例が有意に多かった(p<0.0001)。挿管前低血圧症例ではロクロニウム非使用症例が有意に多かった(p=0.019)。使用鎮静剤の種類やオピオイド・ロクロニウムの使用の有無と挿管時有害事象の発症には関連がなかった。挿管前低血圧や重度低酸素血症の存在は、挿管時有害事象の発生率を有意に関連していた。・結論低血圧・低酸素血症を伴う患者に対する挿管操作には使用薬剤の内容・有無にかかわらず高率に有害事象を伴うため注意が必要であることが再確認された。