第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(ポスター発表)

ショック

[P21] 一般演題・ポスター21
ショック02

2019年3月1日(金) 14:00 〜 14:40 ポスター会場1 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:中川 隆(常滑市民病院救急医療センター)

[P21-3] 帝王切開術後の肺血栓塞栓症に対し経皮的心肺補助導入と血栓溶解療法により救命し得た1例

大和田 玄, 岡野 弘, 木村 康宏, 吉田 輔, 七尾 大観, 藤本 潤一, 西澤 英雄 (横 浜 労 災 病 院 中 央 集 中 治 療 部)

【背景】
妊産婦の肺血栓塞栓症発症率は非妊娠時と比べて高く、肺血栓塞栓症は妊産婦死亡全体の9%、死因の第7位であるが、妊娠産褥期の肺血栓塞栓症から心肺停止に至った症例に対して経皮的心肺補助装置を導入し救命し得た報告は少なく、加えてカテーテル的血栓溶解療法を併用した報告は我々が検索した範囲では確認できなかった。
今回、我々は予定帝王切開術後の急性肺血栓塞栓症から心肺停止に至ったが、経皮的心肺補助導入とカテーテル的血栓溶解療法により救命し、神経学的予後も良好であった症例を経験したので報告する。
【症例】
33歳、女性。妊娠39週2日に予定帝王切開で健児を出生した。術中、術後も循環・呼吸状態は安定していたが、産後1日目に臥位から坐位へ体位変換を行った直後に呼吸苦が出現し、SpO2の低下と血圧の低下を認めたため臨床的に急性肺血栓塞栓症が疑われた。その後、無脈性電気活動(PEA)、呼吸停止となったため胸骨圧迫開始し、気管挿管施行となった。CPR開始12分後に自己心拍が確認できたが、更なる循環動態悪化の可能性があったため当院に救急搬送となった。当院到着後に再度PEAとなったため直ちに経皮的心肺補助装置(PCPS)を導入した。PCPS導入後に自己心拍は再開し、指示動作も確認できた。肺動脈造影で両側肺動脈主幹部に血栓が確認されたため、ガイドワイヤーで可能な限り血栓を破砕した後にカテーテル的血栓溶解療法としてウロキナーゼ12万単位を肺動脈内投与し、全身管理目的にICU入室となった。
ICU入室後は帝王切開手術後であることを考慮し血栓溶解療法は行わず、抗凝固療法として持続ヘパリン投与を開始した。初診時に経胸壁心臓超音波検査で認められた顕著な右心負荷所見は、ICU入室後より経時的に改善した。翌日には循環動態の改善が認められたためPCPSを離脱。離脱後の血行動態は安定しており、酸素化も改善したため2日目に抜管、5日目にICU退室となった。その後、循環・呼吸状態ともに安定し、心停止に伴う脳神経学的異常所見も認められなかった。
【考察】
本症例は、肺血栓塞栓症による循環虚脱に対して早期にPCPSを導入して循環を確立したこと、血栓溶解療法が奏効したこと、及び血栓溶解薬を直接肺動脈内に投与して投与量を減じたことによって、手術後にも関わらず重篤な出血性合併症をきたさなかったことが、神経学的後遺症を残さず救命できた原因と考えられた。