第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(ポスター発表)

感染・敗血症 症例

[P25] 一般演題・ポスター25
感染・敗血症 症例04

2019年3月1日(金) 14:00 〜 14:50 ポスター会場5 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:小松 孝行(順天堂大学医学部附属練馬病院 救急・集中治療科)

[P25-2] ステロイドパルス療法が有効であったA (H1N1)pdm09による重症インフルエンザ肺炎の一救命例

山田 尚弘1, 辻本 雄太1, 長谷川 佑介2, 瀬尾 伸夫1, 森野 一真1 (1.山形県立中央病院 救急科, 2.山形県立中央病院 麻酔科)

既往も併存疾患もない39歳男性。インフルエンザワクチン未接種。2016年某日、同居の妻子がインフルエンザに罹患し、本人も発熱、悪寒、食欲低下を発症した。発症5日目に近医を受診し、鼻腔拭い液インフルエンザ迅速診断キットでA型インフルエンザウイルス陽性であり、オセルタミビル内服で治療を開始された。しかし症状が改善せず、発症8日目に近医再診したところ、SpO2 40%(大気下)であり当院に紹介搬送された。搬入時、全身チアノーゼと努力呼吸を認めた。血圧 110/85 mmHg、脈拍 110/分、SpO2 70%(O2 15 L/分 リザーバーマスク)、腋窩温 37.8度、JCS 2だった。胸部CT検査では右肺上葉と右肺中葉の一部を除き、全体にすりガラス陰影と浸潤影を認めた。WBC 8520 /μL, CRP 5.9 mg/dLと炎症反応の上昇はわずかであった。経過と検査所見からインフルエンザ肺炎、Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS)と診断し、侵襲的陽圧換気を導入した。第1病日よりぺラミビル 600 mg, レボフロキサシン 500 mgを点滴静注し、腹臥位療法を施行したが、P/F比 80~100と酸素化の改善に乏しかった。気道分泌物を塗抹検鏡したところ、有意な菌体を確認できず、多核白血球と単核白血球を認め、肺胞上皮細胞の融解像を認めた。感染を契機とした高サイトカイン血症が呼吸不全の悪化に関与していると考え、第2病日にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 1000mg / 日, 3日間)を開始し、同日中にP/F比161.9まで改善した。後療法は行わず、第5病日にP/F比 295.6まで改善した。BMI 41.5と高度肥満かつ短頚のため気管切開が困難であり、胸部単純X線写真および酸素化能の改善経過と、気道分泌物の塗抹検鏡で有意な菌体を認めなかったことから、更なる呼吸状態の改善と挿管期間の短縮を期待できると判断し、第7病日に再度ステロイドパルス療法を施行した。第9病日には腹臥位療法を終了し、第15病日に抜管した。第51病日に自宅退院となった。なお、咽頭拭い液のpolymerase chain reaction(PCR)法でA(H1N1)pdm09が同定された。本症例ではステロイドパルス療法が効果的だったという印象を持った。A(H1N1)pdm09が感染した重症患者に対してステロイド投与が死亡率の上昇に関連しているという文献的報告がなされているが、統計学的な調整の仕方によってはステロイド投与と死亡率に関連がないという報告もあり、実臨床においてステロイドの適応を慎重に判断する必要がある。