[P41-2] 腹部コンパートメント症候群を合併した熱中症の1症例
[背景]腹部コンパートメント症候群(Abdominal Compartment Syndrome, 以下ACS)は主に外科手術後や多発外傷後の合併症としての報告が多い。しかし今回我々は3度熱中症に対して大量補液による加療を行った経過中に、内因性疾患由来の腹部コンパートメント症候群を来したが集学的治療により救命できた一例を経験したので報告する。[臨床経過]症例は40歳男性。炎天下の中(最高気温35℃、湿度80%)で除草作業を行っている中で意識障害を来し当院救急搬送された。暑熱環境での作業の病歴と意識障害、血液検査での高CK血症、急性腎障害(BUN 16.6mg/dL、Cre 2.03mg/dL)より3度熱中症と診断し、生理食塩水大量補液での加療を開始した。来院当日の夜間に大量下血を引き起こし、DICによる凝固障害由来の消化管出血としてさらなる輸血、大量補液での加療を継続し、入院2日目までに総計10316mlの輸血・補液が施行された。また入院当日より腎機能障害が遷延し、入院7日目には無尿(BUN 52.1mg/dL、Cre 3.28mg/dL、尿量101ml/日)となった。尿検査の所見より腎前性腎障害が原因と判断したため、プラスバランスでの点滴加療を継続したが、腎機能の改善を認めなかった。入院16日目に著明な腹水と全身浮腫を認めたために、膀胱内圧を測定したところ35mmHg(基準値5~7mmHg)と高値であり、腎機能障害も来していたことから、ACSと診断した。治療としては4回/日の膀胱内圧値を参考にし、排便コントロール・腹腔穿刺による腹水除去・マイナスバランスでの体液管理・ギャッジアップ20度以下での体位制限を行うことで腹腔内圧をコントロールする加療を開始した。その結果ACSの診断・治療開始以後は、腎機能は顕著に改善し、入院27日目には完全な腎機能の回復を認めた(BUN 54.7mg/dL、Cre 0.99mg/dL、尿量2270ml/日)。その後膀胱内圧測定を中止したが腎機能障害が再燃することはなく、入院58日目にリハビリ目的に転院となった(Grasgow Outcome Scale 4)。[結論]今回の症例では内因性疾患に対する大量輸血・補液がACSの原因となったと考えられる。ICU入室中の患者で進行性の臓器障害が出現した場合には、外科手術後や多発外傷後に限らず、ACSの存在を念頭に置き、膀胱内圧を測定するべきであると考えられた。