[P65-5] 有機リン中毒患者に対する理学療法経過
【背景】有機リン中毒の症状は,急性期にみられるムスカリン症状やニコチン症状,数日後に再発する中間症候群や数週間後にみられる遅発性神経障害など様々である.入院当初は意識障害や管理による制約のため離床に難渋することが多い.疾患重症度を反映する指標として血清コリンエステラーゼ値(以下ChE値)が用いられるが,運動療法との関連は定説がなく,その進め方は明確ではない.今回,当院における有機リン中毒患者5例の理学療法経過を振り返った.【臨床経過】対象は,2016年4月から2017年8月の間に有機リン中毒で当院へ入院し,理学療法を実施した患者5例とした.年齢は58±12歳,入院時のChE値は1例が11U/L,それ以外は感度以下であった.治療は,胃洗浄,硫酸アトロピンの投与などが行われており,入院時は全例で人工呼吸器管理であった.理学療法では,離床困難な時期はベッド上で合併症予防を目的とした呼吸理学療法などを実施している.その後,意識レベルや呼吸・循環動態,筋力を確認しながら医師と相談して座位,起立・立位,歩行へと段階的に運動療法を進めている.症例1は,重度の四肢麻痺を認めたため立位開始が遅れ,その後MMT3へ改善した31病日に立位を開始した.症例2は,鎮静薬の投与により従命不確実であったが,鎮静薬終了後に従命可能となり,筋力はMMT3・4であったため16病日に立位を開始した.症例3・4は,筋力はMMT4であったが,動作練習を進める際に不安の訴えがあったため,精神的負担に配慮しながら段階的に離床を進め,8病日に立位を開始した.症例5は,初回評価時より明らかな有機リン中毒症状を認めず,動作に対する不安もなかったため,初回介入時の4病日に立位・歩行を開始した.その際のChE値は感度以下であった.全例において立位開始から数日以内に歩行を開始した.離床に難渋した症例は,重度の意識障害や運動麻痺を認めた症例であったが,ADLは全例で改善した.【結論】有機リン中毒症例に対する理学療法はADLの改善に有用であったと考えられる.意識障害や運動麻痺を認めない症例では早期から離床を進めやすく,その際のChE値が低値であっても本研究の対象者においては運動療法の阻害因子とはならなかった.