第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(ポスター発表)

呼吸 症例

[P69] 一般演題・ポスター69
呼吸 症例04

Sat. Mar 2, 2019 2:00 PM - 3:00 PM ポスター会場7 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:横瀬 真志(横浜市立大学附属病院 集中治療部)

[P69-7] 周術期に危機的な低酸素に陥ったが社会復帰を果たした筋強直性筋ジストロフィー患者の1症例

後藤 真也1, 渡部 修2, 宮村 保吉2, 鈴木 健人2, 清水 賢一1, 田中 啓司2, 岡田 邦彦2 (1.佐久総合病院 佐久医療センター 麻酔科, 2.佐久総合病院 佐久医療センター 救急科)

 筋強直性筋ジストロフィー(MD)は、遺伝子の不安定塩基配列が延長し発症するトリプルリピート病で、リピート数が多いほど重症化する。筋萎縮や筋力低下を中心とした多彩な症状を呈し、腫瘍合併もみられる。また、鎮静薬の感受性亢進や術後遷延性呼吸障害のために周術期管理に注意が必要である。今回、手術を契機に危機的な低酸素に陥った症例を経験したので報告する。 41歳女性事務職、152cm/65kg。子宮内膜増殖症に対して腹式単純子宮全摘+両付属器摘出が予定された。数年前より筋力低下があり、MDと診断された。歩行は問題ないが、末梢優位の筋萎縮があり、つま先立ちはできない。FVC45%と拘束性障害があり、動脈血液ガス分析はpH7.34,PaO2 64mmHg,PaCO249.5mmHgであった。塩基配列のリピート数は約1000回である。手術は全静脈麻酔+硬膜外麻酔で行い、筋弛緩薬はロクロニウムを間欠投与し、術後スガマデクスを用いて拮抗した。術中より酸素化不良があり、術後は抜管せずにICUに入室した。胸郭挙上が制限され、換気には高い吸気圧を要し、酸素化は経時的に悪化していった。体位変換、体動で容易に低酸素に陥り、術後より約2週間PaO2 60mmHg以下の低酸素が持続した。低酸素の原因は特定できず、支持的療法を継続した。POD7より胸水がみられ、POD9に左胸水穿刺を施行、翌日より酸素化は徐々に改善し、FiO2も下げられ、体位変換も可能となり、リハビリテーションも開始した。POD16に気管切開施行され、呼吸器設定も徐々に緩和し、POD44呼吸器離脱、一般病棟に転出した。POD56に転院となり、術後より約2か月で歩行開始、4か月で自宅退院、9か月で職場復帰となった。 本例は拘束性障害は認められ、リピート数や年齢からも合併症に対する注意が術前から必要な症例であった。MDは麻酔薬による筋力低下やCO2に対する呼吸中枢の反応低下のために換気が抑制され、呼吸器合併症の発生率は高い。本例では低酸素の原因は特定できなかったが、無気肺や肺うっ血など様々な要因があったと思われる。しかし、低酸素に陥った契機は鎮静と人工呼吸管理であり、できうる限り避けることが望ましい。本例は下腹部の開腹手術であり、区域麻酔による手術も選択でき、人工呼吸を避けるために検討すべきであった。