[P7-2] 重篤な敗血症性ショックをきたしたが早期に手術を施行できた感染性心内膜炎の一症例
【背景】感染性心内膜炎(Infective endocarditis: IE)に対する外科的治療の適応は、一般的に弁機能障害による心不全や感染が遷延する場合とされている。しかし、多彩な全身性合併症を呈するIEにおいて人工心肺手術の侵襲は大きく、手術時期の決定には慎重な判断を要する。今回、重篤な敗血症性ショックをきたしたが早期に手術を施行できたIEの一症例を経験した。【臨床経過】67歳男性。来院11日前より前医で左臀部蜂窩織炎の診断で加療されていたが、敗血症性ショックとなり高度の循環不全をきたしたため当院へ救急搬送された。来院時、起坐呼吸をきたしており、リザーバーマスク10 L/minでSpO2 85~90%、ノルアドレナリン0.4 μg/kg/minで血圧71/41 mmHgであった。CT検査では肺水腫、肺膿瘍、左臀部・右下肢・頸椎椎体に膿瘍を認め、心エコーでは疣贅を伴う穿孔性の重症大動脈弁閉鎖不全症、中等度僧帽弁閉鎖不全症および三尖弁閉鎖不全症、卵円孔開存を確認した。心エコー所見からは緊急手術の適応であったが、高用量のカテコラミンを要する極めて不安定な循環動態あったため、まず全身状態の改善を優先し治療介入を行った。前医での血液培養所見は陰性で起因菌は不明であったが、重症感染症としてメロペネム、バンコマイシンにアムホテリシンBを加えて抗菌薬治療を行うとともに人工呼吸管理、ステロイド補充療法、持続的腎代替療法およびエンドトキシン吸着療法を開始した。集学的治療によって循環動態は徐々に安定し、酸素化の改善が得られたため、第3病日に大動脈弁置換術および右下腿切開排膿術を施行した。当院の血液培養は陰性であったが、右下腿膿瘍生検でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出されたため、IEの起因菌と推定し抗菌薬をセファゾリンとバンコマイシンに変更した。全身性多発膿瘍の感染コントロールに難渋したが、抗菌薬治療と全身支持療法の継続で全身状態は徐々に改善し、第16病日ICU退室、第26病日転院となった。【結論】IEの手術時期は、心不全や感染の制御、塞栓症など合併症の程度を含めた全身状態を考慮して決定される。本症例では敗血症による高度の呼吸・循環不全を来したにもかかわらず、集学的治療によって早期に手術を施行することができ救命につながった。