第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(ポスター発表)

感染・敗血症 症例

[P9] 一般演題・ポスター9
感染・敗血症 症例03

2019年3月1日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場9 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:遠藤 裕(新潟大学医歯学総合病院高度救命救急センター・集中治療部)

[P9-2] 敗血症性ショックにより低血圧と急激な低酸素血症を来した肝移植後患者の一例

池垣 緑, 瀬尾 英哉, 瀬川 一 (京都大学 医学部附属病院 麻酔科)

今回我々は、肝硬変に対する肝移植後に著明な低血圧と低酸素血症を発症し、その原因が敗血症性ショックと考えられた症例を経験したので報告する。
【症例】62歳女性。原因不明の肝硬変に対し生体肝移植術が予定された。手術2日前に鼻出血と肝性脳症による意識障害のためICUに入室し挿管人工呼吸管理となったが、予定通り肝移植術が施行された。POD3に39℃の発熱を認め中心静脈(CV)カテーテルを抜去しメロペネム、タゾバクタム・ピペラシリンの投与を開始した。この時の血液培養より抗菌薬に感受性のあるEnterobacter cloacaeが検出されていたが、全身状態は改善しPOD5に抜管した。POD7に再び39℃の発熱と頻脈、意識レベル低下を認め、CVカテーテル挿入のための体位変換を契機に急激な血圧低下と低酸素血症を認めた。経過から肺塞栓を強く疑うも、経胸壁心エコー、造影CTでは否定的であった。人工呼吸器による呼吸管理、昇圧剤による循環補助下に、ステロイドとテイコプラニンの追加投与を行ったところ病状は徐々に改善し、POD19には一般病棟に転棟となった。
【考察】今回、肝移植後に著明な低血圧と低酸素血症を来した症例を経験した。発症の経過から肺塞栓を含む閉塞性ショックを疑うも、検査結果からは否定的であった。血液培養からAcinetobacter baumannii 、Enterobacter cloacaeが検出、白血球の推移、SOFAスコア上昇などから敗血症性ショックであったと推測された。なお、喀痰から同一菌が検出されるも画像上肺炎は否定的であった。
肝硬変患者では病的な血管拡張が起こるため、交感神経の過緊張状態(hyperdynamic state)や肺内シャントの増加(肝肺症候群)などを合併し、その結果循環の不安定性や低酸素血症を来しやすいとされる。本症例ではそこに同じく血管拡張を主病像とする敗血症が加わったことで、急激な血圧低下を来したものと推測される。術前に低酸素血症は認めなかったが、すでに肺内シャントが存在し、敗血症による肺血管の拡張が加わることで換気血流不均衡が増大し、急激な低酸素血症を来したものと考えられた。
【結語】肝硬変患者の肝移植後に発症した敗血症性ショックの一例を経験した。肝硬変患者では敗血症性ショックにより、急激な低酸素血症をきたす可能性がある。