第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD4] パネルディスカッション4
外傷性凝固障害へのアプローチ

2019年3月1日(金) 15:35 〜 17:35 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:石倉 宏恭(福岡大学医学部救命救急医学講座), 久志本 成樹(東北大学病院高度救命救急センター)

[PD4-2] トラネキサム酸による出血している外傷症例の生死の転帰の改善効果には患者の異質性からの影響が大きい

白石 淳 (亀田総合病院 救命救急科)

Clinical Randomisation of an Antifibrinolytics in Significant Hemorrhage (CRASH-2) 試験は、出血している外傷患者に対するトラネキサム酸の早期静脈内投与が生死の転帰を改善することを示し世界を驚かせた。今まで外傷領域での最大の国際共同二重盲検ランダム化比較試験が、外傷症例の生死の転帰を改善する唯一の薬物治療を示したのである。しかし、CRASH-2試験は様々な批判に晒された。あらゆる部位の外傷症例を「出血のリスクが高ければ」組み入れていて対象の異質性が高いことと、生死の転帰の改善にもかかわらず輸血量が減少していないことへの疑問の二点が特に重要である。外傷患者に対するトラネキサム酸の効果を検証した系統的レビューに組み込まれた症例数の99%はCRASH-2 試験のものであり、ひとつの試験に依存しているため一般化可能性が高められていない。その後の観察研究では、様々な外傷症例に対するトラネキサム酸の効果は有効から有害まで一定せず、対象の異質性に影響されることを示唆している。 コクラン系統的レビューに含まれるメタ解析のひとつでは、頭部外傷へのトラネキサム酸の効果が高いことが示されている。日本外傷学会が行った外傷症例の血液凝固線溶異常に焦点をあてた多施設共同観察研究 Japan Observational Study for Coagulation and Thrombolysis in Early Trauma (J-OCTET) 研究からのひとつでは、傾向スコアマッチ法を用いランダム化比較試験を模してトラネキサム酸の効果を検討した。トラネキサム酸の効果(絶対リスク差 -8.4%)の殆どは頭部外傷死の減少(絶対リスク差 -7.2%)であった。輸血量の減少はなかった。この結果はCRASH-2研究の再現性を高め批判に対して答えていることと同時に、頭部外傷例がトラネキサム酸の最も有効なサブグループではないかという仮説の提示をしている。しかし、前向き研究での結論はまだ出ていない。 トラネキサム酸の外傷症例に対する転帰改善効果は、外傷診療領域で最大のランダム化比較試験「ひとつだけ」に支えられている。しかし、対象症例の異質性がトラネキサム酸の効果を左右している可能性には、J-OCTET研究を含む複数の研究が仮説を提唱しており、今後の大規模研究やランダム化比較試験で検証されるべきである。