第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD4] パネルディスカッション4
外傷性凝固障害へのアプローチ

2019年3月1日(金) 15:35 〜 17:35 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:石倉 宏恭(福岡大学医学部救命救急医学講座), 久志本 成樹(東北大学病院高度救命救急センター)

[PD4-7] 外傷性凝固障害に対する冷蔵保存低力価O型全血輸血の可能性(米国での報告から)

木下 学1, 萩沢 康介2, 石田 治3, 齋藤 大蔵4 (1.防衛医科大学校 免疫微生物学, 2.防衛医科大学校 生理学, 3.防衛医科大学校 外科, 4.防衛医科大学校 防衛医学研究センター 外傷研究部門)

 Military、Civilianにかかわらず大量出血による失血死は外傷性疾患における最も代表的な外傷死の1つである。大量出血に対しては、迅速な輸血が有用なことは言うまでもなく、米軍ではアフガニスタンの戦場での出血性ショック患者に対するヘリコプターでの救出の際に、ヘリ搬送中から迅速輸血を行うことで救命率が9倍にも上がったと報告している。とくに、搬送中最初の13分以内に輸血できた症例では救命率が20倍にも上がり、迅速な輸血による救命効果が裏付けられている。しかしながら、迅速な赤血球大量輸血によっても救命出来ない症例があり、これらは凝固障害の増悪を伴っており、その改善が救命に必要であった。そこで、Holcomb JBらは大量出血に対して、赤血球成分だけでなく、凝固に必要な血漿成分と血小板を十分量補充する赤血球:血漿:血小板の比が1:1:1のバランス輸血を提唱した。しかし実際には、迅速な血小板輸血は不可能に近く、もっぱらwalking donorとして健常な若者から採血した新鮮全血を止血成分の補充を目的に行っているのが現状であった。最近、全血輸血による副作用を軽減し、さらに効果を高めるため、冷蔵保存した低力価のO型全血輸血 (cold-stored low-titer O-positive whole blood, CS-LTOWB)をプレホスピタルで行うことが急速に広まりつつある。このCS-LTOWBはクロスマッチの必要がなく、迅速に輸血でき、良好な止血効果があるため、2017年後半には劇的に使用量が増加している。 一方、我々は、血小板活性化物質であるADPを内包したリポゾームの表面に、フィブリノーゲンの活性化部位を付けた人工血小板 (H12-ADP-liposome)を開発している。出血部位に集積し、そこで血小板血栓の形成を促進する強力な止血効果がある。これらは常温静置で半年以上保存可能で、かつ大量生産できるため、備蓄に適しており、プレホスピタルでの迅速な使用が期待できる。Walking donorが必ずしもいるとは限らない本邦の現状では、その有用性が期待できるのではないだろうか。