第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD7] パネルディスカッション7
集中治療における多臓器機能とバイオマーカー

2019年3月2日(土) 14:00 〜 15:30 第5会場 (国立京都国際会館1F Room D)

座長:佐藤 直樹(日本医科大学武蔵小杉病院内科・循環器内科・集中治療室), 松田 兼一(山梨大学医学部附属病院集中治療部)

[PD7-5] バイオマーカーをどう評価するか

松田 兼一 (山梨大学医学部救急集中治療医学講座)

同時通訳付き】

 バイオマーカーを評価する際には,感度/特異度共に高い方が有用であることは言うまでもないが,発現し変化するタイミングも重要である.例えば,CRPは重症患者における炎症の程度を把握する際に使用するバイオマーカーとして古くから使用されている.CRPは慢性疾患の炎症の程度を把握するには非常に有用なバイオマーカーであるが,炎症程度が急激に変化する重症患者においては如何であろうか?炎症マーカーとして使用しているIL-6血中濃度の変化は病態の変化に応じてreal timeに変化するのに比して,CRPは数日遅れて変化する.つまり,敗血症症例において,発症直後ではIL-6血中濃度が高値でもCRPは依然低値で,病態の改善とともにIL-6血中濃度は低下するものの,CRPは上昇するといった矛盾が認められる.さらに,CRPは肝臓で合成されるため,肝不全症例では低値となり信頼性に乏しい.同様に乳酸値は循環不全の際に有用なバイオマーカーであるが,やはり肝不全症例では乳酸クリアランスが低下し,より高値となるため信頼性に乏しい.一方,ステロイド投与によって炎症反応を過剰に抑えた場合に,IL-6血中濃度は極端に低下し,IL-6血中濃度で敗血症症例の重症度を示すことは困難となる.
 また本セッションにおいて取り上げられているバイオマーカーについて言及する.まず,腎障害(AKI)のバイオマーカーとして尿中NGALがあるが,Cre血中濃度よりも早くAKI診断が可能となるものの,腎障害特異的な上昇を示すわけではなく,重症患者においては尿中NGALのみでAKIを診断するのは困難である.また,PCTは従来,甲状腺で産生される物質であり,甲状腺異常を合併する症例におけるPCTの信頼性は不明である.さらに,本邦で発見された敗血症のマーカーであるプレセプシンは敗血症症例においてPCTよりも感度は高く特異度は低いとされ,敗血症をより早期に診断できる.しかし,AKI症例では高値となり,AKIを伴う敗血症症例においては感染に対するプレセプシンの診断精度が低下する.
 以上より,バイオマーカーそれぞれの特性を十分理解した上で,複数のバイオマーカーを駆使して集中治療を行うことが肝要と考える.