第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY9] シンポジウム9
敗血症患者の低体温をどのように扱うか?

2019年3月2日(土) 10:20 〜 11:50 第7会場 (国立京都国際会館1F Room E)

座長:小林 忠宏(国立大学法人山形大学医学部附属病院救急科), 中嶋 康文(関西医科大学麻酔科)

[SY9-2] 敗血症における低体温のメリット

藤田 基, 小田 泰崇, 鶴田 良介 (山口大学医学部附属病院 先進救急医療センター)

敗血症における低体温のメリットBenefits of therapeutic hypothermia in septic patients山口大学医学部附属病院 先進救急医療センター藤田基、小田泰崇、鶴田良介【背景】敗血症患者における初診時の低体温は転帰不良の予測因子と報告されている[1]が、敗血症患者における低体温療法の導入は敗血症の病態を改善するかもしれない。【方法】敗血症に対する低体温療法の効果について、当院の基礎研究の結果を含め、文献的にレビューを行った。【結果】基礎研究において、低体温療法の導入は敗血症の生存期間を延長すると報告されている[2-4]。低体温のメカニズムとして、炎症性サイトカインの抑制[2,5-7]、抗炎症性サイトカインの増加[6,7]、酸化ストレスの抑制[6]、好中球集積の抑制[6]、細胞内代謝の抑制[4]、脾臓からの活性化好中球の遊離の抑制[3]、骨髄由来免疫抑制細胞の産生と集積の抑制[8]、心肺などの臓器障害の抑制[2,5]などが報告されている。またラット肺炎球菌性肺炎モデルにおいて、低体温療法は細菌増殖を助長せず、むしろ細菌の播種を抑制すると報告されている[9]。我々は、ラットエンドトキシン血症合併薬剤性膵炎モデルにおいて、エンドトキシン投与直後から低体温を導入する早期群とエンドトキシン投与1時間後から低体温を導入する遅発群で比較検討を行った[7]。早期群は低体温を導入しない対照群に比べ有意に1時間後、3時間後のIL-6が抑制され、1時間後のIL-10が有意に高かった。遅発群では3時間後のIL-6は有意に抑制されたが、IL-10は対照群と差は認めなかった。早期群の1時間後のIL-10は遅発群に比べ有意に高く、低体温療法の早期導入により、抗炎症作用を発揮することを明らかにした。臨床研究では、重症敗血症性ARDS患者に対する低体温療法は酸素化を改善し、生存率を上昇させた(67% vs. 100%, P<0.05)と報告されている[10]。最近ヨーロッパで行われた敗血症患者に対する低体温療法のRCTにおいては、低体温群で凝固障害が改善されていた[11]が、死亡率の改善は認めなかった[12]。【結語】低体温はメカニズムとして、抗炎症作用を有することから敗血症の病態を改善しうると考えられるが、臨床研究では低体温療法の有効性は限定的である。低体温療法の至適な導入時期、期間などの検証が必要と考えられた。【文献】[1] J Intensive Care Med. 2018 Jan 1:885066618761637. doi: 10.1177/0885066618761637. [Epub ahead of print][2] Life Sci. 2018;199:1-9.[3] J Surg Res. 2017;215:196-203.[4] Crit Care Med. 2006;34:2621-2623.[5] Crit Care Med 2014; 41:e401-e410[6] CHEST 2004; 125:1483-1491.[7] Pancreas 2008;37:176-181.[8] Am J Emerg Med. 2015;33:1430-1435.[9] Crit Care Med 2012; 40:919-926.[10] Resuscitation. 1993;26:183-192.[11] Thromb Res. 2015;135:175-182. [12] Lancet Respir Med. 2018;6:183-192.