[O-1-028] 3T 1H MR Spectroscopyを用いたうつ病患者におけるECT前後の脳内複数箇所のGlxの変動の測定
【目的】脳内のグルタミン/グルタミン酸複合体(Glx)は、記憶や学習に不可欠な役割を果たす物質であり、うつ病などの精神疾患においても病態に関与している可能性がある。近年MRSを用いて脳内のGlx量を測定する研究が行われており、うつ病患者の脳内でGlx量が異常値を示し、その程度が症状の程度と相関するという報告があり、症状の客観的指標や新たな病態解明の方法としての利用が期待されている。しかし先行研究では、うつ病患者において脳内のどの部位のGlxの変化が大きいのかについて検討した報告はない。うつ病患者に電気けいれん療法(ECT)を施行すると、前後でGlxが大きく変動し、症状改善の程度と相関するとの報告がある。そこで本研究では、うつ病患者のECT前後で脳内の複数箇所でGlxを測定してその変動を臨床症状の変化に対照させ、うつ病の病態に大きく関与する脳内部位を検討した。【方法】当院神経精神科に入院中のうつ病患者で、症状改善のためECTが必要と判断された2名について、週に2回程度の頻度で、ECTが施行された。この患者に、最初のECTの直前、最後のECTの直後、最後のECTの約4週後の3回にわたり、MRI装置(Ingenia 3.0T, PHILIPS, Amsterdam, Nederland) を用いてMRSを行った。TR=2000ms、TE=38msとして、左扁桃体(ROI:1.5×1.5×1.5cm3)、左前部帯状回(ROI:1.5×1.5×2.0cm3)、左背外側前頭前野(ROI:1.5×1.5×1.5cm3)のGlxを測定した。データはLCModelを用いてフィッティングを行い、物質量は絶対量で算出した。また、神経精神科の医師によりECTの直前、直後、4週後のうつ病の症状の程度が評価され、この結果と脳内の各部位におけるGlxの変動を対照させた。【結果・考察】1例目は8回のECT後にうつ病の症状の著明な改善を認めて退院となった。2例目は5回のECT施行後にせん妄が出現し、ECTは中止となったが、うつ症状は改善して退院となった。ECT後に、1例目は左扁桃体においてGlxが他の部位に比較し著明に増加していたが、2例目では全ての測定部位でGlxに大きな変化は見られなかった。この結果から、左扁桃体のGlxが他の脳部位より鋭敏にうつ症状の改善を反映している可能性が示唆された。