第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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実践報告2[上肢・高次脳機能障害]

2021年10月24日(日) 14:40 〜 16:10 第2会場 (ライブ配信)

座長:中里 瑠美子(東京女子医科大学東医療センター)

15:05 〜 15:30

[PR2-02] 右眼に目薬をさそうとすると鼻に落ちてしまう右利き手パーキンソン病患者の症例報告
ー 空間認識と姿位制御に関する一考察 ー

*青木 良磨1 (1. 登戸内科・脳神経クリニック)

点眼薬の滴下行為は、点眼薬の位置視認と滴下されると予測した上肢の姿位認識により達成される。小長谷らは点眼薬の滴下は点眼容器を指で把持し、頸部を伸展させながら容器を把持した手とは反対の手で上下の眼瞼を押し広げ,点眼容器を持つ上肢を眼球前まで適正と認識する位置に固定させ、容器を圧迫して眼球に1滴の溶液を流し込むという行為と定義される(小長谷ら. 2015)。すなわち頭頚部の位置や角度の調整と顔面への到達動作や手指の把持操作など複数の動作が必要となる一連の行為である。点眼薬の滴下は若年健常者でも成功率79.3%と、約2割が失敗する難易度の高い行為である。姿勢異常や手指の巧緻性低下の臨床症状を呈するパーキンソン病(PD)患者では、さらに成功率は低下すると想定される。
今回報告する症例は、右眼に点眼薬を滴下する際に一貫して鼻に滴下してしまうという失敗が観察された70歳代男性の右利き、左利き目のPD患者である。本症例は前屈前傾姿勢と右斜め徴候の姿勢異常があり、客観的には頸部伸展と右眼球前への右上肢リーチ時に右斜め徴候が増悪していたが、患者による主観では「身体はまっすぐにできている」と姿勢変化に対する自覚が乏しかった。またUnified Parkinson's Disease Rating Scaleの運動項目である指タッピングで徐々に振幅が狭くなる手指のパーキンソニズムがみられたが、左眼への滴下では失敗が少ないことや、失敗する滴下部位がいつも鼻であるといった現象が観察された。これらの現象から頭頚部や上肢機能単体の問題ではなく頭頚部を伸展しながら右眼に右上肢をリーチする際の、上肢と頭部の位置関係の情報構築の異常が点眼薬の滴下失敗に影響していると考えた。本報告ではこれらの病態解釈の過程やリハビリテーションによる治療内容及び結果の解釈について提示し議論する機会としたい。