第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S1-01] 失行症患者の行為主体感は変容しているか?
ー 映像遅延検出課題とKeio methodを用いた検討 ー

*石橋 凜太郎1、河野 正志1、松川 拓1、寺田 萌1、信迫 悟志2、森岡 周2 (1. 村田病院、2. 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

【はじめに】
 失行症患者は,行為主体感(Sense of Agency: SoA)の変容をきたす可能性があり(Pazzaglia, 2010),Nobusakoら(2018)は,映像遅延検出課題(Shimada, 2010)を用いて,視覚-運動統合機能が低下していることを明らかにした.今回,映像遅延検出課題とSoA課題(Keio method ,Maeda, 2012)を用いて,失行症患者におけるSoAを横断的に調査したので報告する.

【方法】
 対象は,本課題の理解が可能であった左半球損傷患者17名(67.4±12.0歳)とし,失行症状の有無で失行群(7名)と非失行群(11名)に分類した.失行の重症度はapraxia screen of TULIA(AST)で評価し,失行群には錯行為におけるSoAの有無を聴取した.映像遅延検出課題は,2統合条件(視覚-固有受容覚,視覚-運動),7遅延条件(33~594msec)で実施し,遅延検出閾値(delay detection threshold: DDT)を算出した.SoA課題は,11遅延条件 (0~1000msec)と3EPA(event prior to action: EPA)条件の全14条件で実施し,主観的等価点(point of subjective equality: PSE)を算出した.統計学的に群間比較と相関分析を実施し,有意水準は5%とした.

【結果】
 錯行為のSoAは,変容を訴える症例と訴えない症例が存在した.失行群の視覚-運動条件DDTは,非失行群と比較して有意に延長した(p<0.05).失行群のPSEは,非失行群と比較して延長傾向にあった(p=0.057).視覚-運動条件DDTとAST(r=−0.757, p<0.001),およびPSEとAST(r=−0.707, p<0.05)には,それぞれ有意な負の相関関係を認めた.

【考察】
 映像遅延検出課題の結果から,失行群は視覚-運動統合機能が低下していると考えられたが,錯行為のSoA やSoA課題の結果から,失行群であっても必ずしもSoAは変容されない可能性も考えられた.今後,ASTのcut offに基づく分類や,認知機能の統制を踏まえた更なる研究が必要である.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本研究は,全ての参加者の個人情報の管理には十分配慮し,趣旨を説明した上で同意を得て実施した.