第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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神経系(上肢)

[S2-01] 「力を入れないと左手が止まらない」と訴え炊事で疲労が増大する生活期右視床損傷症例
ー 力みの低減を目的に介入した経過 ー

*國友 晃1,2、中西 健太1、横山 純菜1、沖田 かおる1、沖田 学1,2 (1. 愛宕病院 リハビリテーション科、2. 愛宕病院 脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)

【はじめに】
 過剰な力みが定着した症例に,運動時の筋の選択及び筋出力の程度を認識する課題を実施した結果,炊事の運動の質が改善した経過を報告する.

【症例紹介】
 症例は3年前に右視床出血を発症した70代の女性で2週間の集中リハ目的にて当院入院となった.左側のBr.stageは上下肢及び手指はⅤ,上下肢の表在・深部感覚は軽度鈍麻であり左手全体に痺れ(NRS 5/10)を訴えた.左側のFMA(上肢項目)は59/66であり肩の共同運動や協調性とスピードの項目で減点を認めた.握力(kg)は右23.0,左12.5であった.把持力調整の評価として3種類の重量設定が可能な30mm3の立方体装置(テック技販製)を把持した際の把持力を測定した.左手は右手と比較して筋出力の増大を認めた.左手を物体へ到達する際の内省は「全力で(左上肢が)動くなよと持って行っている」であり,外部観察では左側の母指内転・前腕の振戦・肩外転位で固定する現象を認めた.JASMIDの運動の質は26.5/100であり,「炊事は全身が疲れるから休み休みやっている」と訴えた.

【病態解釈】
 視床損傷に伴う運動失調に適応するための力みが過剰となり上肢関節の選択的な運動を困難にしていると考えた.そのため最適な力量の認識が阻害され,疲労感の増大とともに運動の質を低下させていた.

【認知運動課題と経過】
 治療目標を上肢関節の選択的運動と最適な力量を学習すると設定した.内容は左側腋窩でスポンジを使用した硬度識別課題を実施した.段階付けとして肩の運動に伴い同側の手指・前腕の放散反応を制御が可能になった後,肩単独の運動による識別課題へ移行した.続いて手指の力量を調整しながら前腕・肩の放散反応を制御する課題を実施した.また課題後は物品を使用した到達把持課題も行った.

【結果】
 2週後のFMAは63に改善し運動時の前腕の振戦は改善した.把持力は軽量の物体に対しては力量の低減を認めた.JASMIDの運動の質は退院後の治療1月後から改善を認め5ヶ月目では29.5/100となり,「炊事は休みなしで最後までできるようになった」と変化した.

【考察】
 過剰な力みが定着していたが上肢各関節の選択的な運動及び力量認識の課題により,力量低減とともに運動の質が改善したと考えた.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 発表に対して書面で説明し同意を得た.また個人情報に注意して匿名性を遵守した.