Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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一般演題

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神経系(下肢/体幹)

[S3-04] 脳出血左片麻痺症例の歩行行為に対する介入の試み
ー 緩衝機能に着目して ー

*岡本 浩一1、濵田 裕幸2、安田 真章3 (1. 新潟脳外科病院、2. 東京大学大学院工学系研究科、3. 東京大学医科学研究所付属病院)

【はじめに】
 今回,右被殻出血により左片麻痺を呈した症例に対し,下肢の空間情報に基づく足底の接触情報の予測に対する課題を行い,歩容が改善し,一人称記述にも変化を認めたため,有効であったと推察される介入に考察を加え報告する.

【症例紹介】
 症例は,40歳代男性.X年右被殻出血を発症し,急性期病棟で医学的処置を受け,発症から1カ月後に回復期病棟に転棟となる.病棟生活は車椅子で自立だが,杖歩行時に左足関節内反の放散反応を認め,踵接地時に左方向に不安定性が生じ,軽介助が必要であった.症例は「どうしても踵の外側から着いてしまいます」と記述した.神経心理学検査では注意の分配性の低下を認めた.評価的訓練より,足底の接触情報・足関節の空間情報の変質と身体表象の変質を認めた.

【病態解釈】
 注意の分配性機能の低下に加え,空間情報と接触情報の構築の変質により,左下肢の身体表象に変質が生じ,身体と環境の相互作用を阻害した結果,地面の属性と水平性の知覚機能に問題が生じていると推察された.観察場面において,現在の歩行と病前歩行の表象の比較では,接触情報を構築する必要性を自覚し,即時的な改善を認めた.

【訓練経過】
 課題では座位にて右足底下に横方向に長い表面素材を設置し,療法士が左膝関節を屈曲・伸展することにより,左足部の位置を前後に変化させ,足部を空間上に保持した状態で,足を下ろし,左足底が表面素材に触れるか(どの部位が触れるか)を閉眼で回答を求めた.病前の雪道を歩いた経験のイメージを活用することで左下肢の視覚的な形状の想起と接触へのより強い注意が可能となり,回答が容易になった.結果,訓練開始から1カ月半後,杖歩行時の緩衝期にて左足関節内反の放散反応が制御され,踵で地面への接触に構える機能に改善を認め自立となった.症例は「今は踵の着くイメージが出来ます、踵が出てきました」と行為の内省にも変化を認めた.

【考察】
 歩行時の緩衝機能に改善を認めた要因として,下肢の空間情報に基づく足底の接触情報の予測が可能となり,足部の表象にも変化を与えた.また,課題中に使用した雪道を歩く行為の表象内における左下肢の視覚イメージが構築でき,接触情報への注意をより強く向けたことで緩衝期における足底の接触準備が可能となったと考える.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本症例には,今回の発表に関する説明と同意について書面にて了解を得た.