第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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高次脳機能障害

[S5-05] 多彩な高次脳機能障害によりADLの援助に難渋した症例に対する介入経験

*髙藤 美紗1、林田 佳子1、赤口 諒1、石橋 ゆりえ1、奥埜 博之1 (1. 医療法人孟仁会 摂南総合病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 左半球損傷後に多彩な高次脳機能障害が同時に生じたことで,ADLの獲得に難渋する症例をよく経験する.本発表では,残存能力の把握を試みることで,より適した整容動作の援助が可能となった症例の経過を報告する.

【症例】
 60歳代右利き男性,左被殻の広範囲な脳出血,脳室穿破および前頭葉萎縮を認めた.発症後7週目の身体機能はBr-stage上肢Ⅱ手指Ⅰ,感覚機能は精査困難で,全失語,観念失行,観念運動失行,注意障害,遂行機能障害等の多彩な高次脳機能障害を呈していた.言語機能は単語の聴理解は困難であったが,オノマトペやジェスチャーの理解は可能であった.机上検査は取り組めるが,疲労が強く完遂は困難であった.ADL全般に介助を要し,FIMは運動項目19点,認知項目6点,整容2点で,蛇口操作で失敗を繰り返し,反復練習に対しては拒否がみられた.

【評価】
 ハンドル式の蛇口操作は可能であったが,レバー式の蛇口操作は,蛇口周囲を探索するも動作開始の遅延やレバーを左右に動かす錯行為がみられた.水を出すよう促した場合も同様のエラーに加え,シャワーの切り替えボタンを押す等の動作が生じ,自己での修正は困難であった.レバー操作の方向を指示すると,方向を誤る,同じ間違いを繰り返す錯行為と保続を認めた.しかしながら,オノマトペとジェスチャーを用いて蛇口の操作方法を提示すると,実使用が可能となった.

【病態解釈】
 言語や視覚情報から道具操作時の運動計画に必要な体性感覚情報への異種感覚統合が困難となっていることで,錯行為が生じていると考えた.

【介入と結果】
 蛇口操作時に症例の横で,セラピストがジェスチャーと合わせて,「ジャー」や「キュッ」などの蛇口操作を想起させるオノマトペを提示した.介入は40分で1回のみ実施した.その結果,蛇口操作の開始の遅延がなく動作が可能となった.FIMは整容のみ4点に改善した.

【考察】
 オノマトペを用いたことで,蛇口操作の想起に繋がる視覚情報と体性感覚情報の統合を可能にし,行為の獲得に至ったと考える.異種感覚統合の視点から残存能力を把握することは,多彩な高次脳機能障害が同時に生じた症例のADLの援助をより適したものとする可能性が示唆された.

【倫理的配慮】
 本発表に対し,家族に対して説明を行い同意を得た.