第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S2] 神経系(上肢)

[S2-01] 巧緻性障害を有した脳梗塞患者が復職に至った経験

*橋間 葵1 (1. 医療法人文佑会原病院)

【はじめに】脳卒中患者のうち、実用手に至った事例はKwakkel(2003)らでは12%と報告しており、回復が不十分な事例は少なくない。今回、複雑な道具操作が未獲得だった脳梗塞事例に対し、物品把持の状態で表面素材を識別する訓練を実施し、復職に至った経験を報告する。
【症例紹介】発症2ヶ月経過した脳梗塞による右片麻痺事例。FMAの上肢項目は、64/66点、BRSⅤ-Ⅴ-Ⅵ、MALの使用頻度(AOU)2.35点、動作の質(QOM)2.07点。ADLは自立しているが巧緻動作障害を有し、復職(歯科医)に至らず。右肘・手関節・手指に伸張反射の異常な亢進や放散反応を認めていた。知覚は、全指腹の2点識別覚は良好で、空間情報は複数指や手掌においてエラーを認めなかった。接触情報は単指では識別できるが、複数指間での比較を伴う識別は困難であった。また、使用中の箸やペンなどの握りがずれても変化を知覚できず、実使用が拙劣であった。評価的治療にて、レーゴリー・マーノなどを用いたが、エラーを生じず特異的な病理の軽減も認めなかった。
【復職に必要な道具操作の特性】直径1cm程度の棒状の器具を歯・歯肉の限局した空間に滞空させ、同時に器具の高度な操作性が必要。
【病態解釈】複数指へ注意を分配できず複雑な道具操作に必要な触圧覚情報が構築できない。
【訓練】手指・手掌で物品の固定と操作が同時に求められる課題が必要と考え、母指と示指で直方体に貼り付けた表面素材を識別する訓練を実施。母指と示指で素材を貼り付けた面を把持したままで、2指を他動・自動運動で動かし表面素材を識別させた。訓練時は、「母指と示指で触れたものの比較」等の問いを立てた。訓練応用として、母指と小指で直方体の側面を把持させ他の指で素材の識別を行った。訓練は外来週1回60分とした。
【結果】複数指での表面素材の差異を他動自動ともに知覚でき、特異的病理が減少した。FMA(上肢)66/66点・BRSⅥ-Ⅵ-Ⅵ、複雑な道具使用が可能となりMAL(AOU5点・QOM4.5点)へ改善した。診療で用いる器具が操作可能となり、麻酔針の歯肉挿入感も知覚でき、介入開始後3ヶ月で復職した。
【考察】片麻痺の巧緻性障害には、物品を把持した状態で表面素材を識別する課題が、回復に寄与する可能性がある。
【倫理的配慮・説明と同意】医療法人文佑会原病院倫理委員会の承認を得た。