第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S2] 神経系(上肢)

[S2-04] 軽度片麻痺患者における運動時に生じた違和感についての一考察
―周期運動の学習特性に着目して―

*寺田 萌1、藤原 瑶平1、石橋 凜太郎1、河野 正志2、市村 幸盛1 (1. 医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション部、2. 医療法人財団北林厚生会五条山病院作業療法室)

【はじめに】
日常生活における我々の行為は,離散運動と周期運動によって組み立てられている(野村,2015).今回,運動麻痺の回復過程において周期運動の遂行時に違和感を訴えた一症例について,運動の学習特性から考察を行ったので報告する.

【症例】
右円蓋部の髄膜腫を発症した50歳代の右利き女性.腫瘍摘出術後,右中前頭回から中心前回に脳梗塞を生じ,左BRSⅠレベルの運動麻痺を呈した.1か月半後にBRSはⅤ,STEFは90点となったが「何か変な感じ」と違和感の訴えが強く聞かれた.感覚障害はなく,接触・空間課題ともにエラーは認めなかったが身体感覚の記述は乏しく,目標であったおにぎりを握る動作では「三角にならない」と現象のみを記述した.行為のエラーや違和感の訴えは周期運動に限定的で,特徴として視覚下よりも遮蔽下で,さらに,両手動作でペースを速めるなど時々しか見ることができない条件でエラーが軽減した.

【病態解釈と介入方針】
池上(2012)は,運動誤差情報を連続的に受け取る周期運動は,エラーとそれに対する運動指令の時間的対応付けに不整合性が生じることから,視覚フィードバックは間欠的に与えたほうが学習成績が向上すると述べている.身体に関する記述が乏しいものの,遮蔽下や時々見るという条件での運動制御が良好であることから,症例は,視覚情報の取得が過多であるために,視覚下では体性感覚処理が不十分となっている可能性があり,周期運動時に生じる違和感は,視覚と体性感覚情報の統合が適切に行われていないことが要因であると考えた.そこで,周期運動の学習特性をふまえ,視覚情報を抑制し相対的に体性感覚情報の取得量を増加させることが違和感の軽減に繋がると考え,視覚情報量の調整を意図した両手での物品操作練習を1日1時間,2週間実施した.

【結果】
BRSはⅥ,STEFは94点へ向上した.その後,週1回の外来リハにて術後4か月目にSTEFは100点に,おにぎりは三角形が作れるようになり「大分スムーズになった」と違和感は解消された.

【考察】
今回,周期運動の特性から行為のエラーの要因を解釈した.体性感覚に焦点を当てた介入ではなく,視覚情報の操作により両者の量的バランスを調整することで,正しい行為の遂行が可能となり違和感の解消に至ったと考えられた.

【倫理的配慮(説明と同意)】
発表に関して症例に口頭で説明し,同意を得た.