第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S2] 神経系(上肢)

[S2-08] 脳梗塞後に身体イメージの変容と痛みを生じた症例に対する介入経験
~認知機能を考慮した痛みの発生メカニズムの分析~

*青山 雄樹1、松田 総一郎1、林田 佳子1、赤口 諒1、石橋 ゆりえ1、奥埜 博之1 (1. 摂南総合病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 認知機能低下に加え,左小指に身体イメージの変容と痛みが生じた脳梗塞症例に対し,認知機能を考慮した痛みへの評価・介入を行ったところ良好な結果を得たため報告する.

【症例紹介】
 症例は80歳代で右利きの女性である.脳梗塞(右頭頂葉~島)後28病日でMMSE10点,TMTは実施困難で,不快な情動を伴うエピソード記憶が保管されやすい傾向にあった.BRSは全てV,感覚機能は概ね正常で,ROMは病前から左環指・小指PIP関節に-90度の屈曲拘縮があったが痛みはなかった.約60病日頃から左小指への予期できない接触・伸張により不快感や痛みを訴えるようになり,その訴えは次第に増加し左上肢の不使用を認めた.神経障害性疼痛の評価であるNeuropathic Pain Inventory (NPI)は16点で誘発痛を認め,左小指・手掌尺側部の皮膚を擦る・押すことに対して3点と回答した.「小指は手掌に隠れている」と記述し身体イメージの変容を認め,身体描画では左手指を4本と描画した.手指について左右比較や他者との比較は困難だった.手指の名称理解は不十分だったが,各手指に番号付けを行うと可能だった.また,閉眼下ではセルフタッチを行うことが困難だったが,開眼下では可能で痛みを伴わなかった.

【病態解釈と介入】
 屈曲拘縮のあった左小指への予期できない接触や伸張により不快感や痛みが誘発され,接触を避けるように左手の使用は減り,左小指の身体イメージが変容したと考えた.また,認知機能低下のため情報の比較は難しく,他者からの接触は痛みの予期が生じ困難だった.しかし,セルフタッチは痛みを伴わずにセラピストの指示で実行できたことから,介入は視覚情報を用いたセルフタッチの課題を40分/5日間実施した.

【結果と考察】
 身体描画では左手指を5本と描画し,NPIの左小指・手掌尺側部の皮膚を擦る・押すことは0点に改善した.また,食事動作で左上肢の参加がみられるようになった.本症例は不快な情動に対するエピソード記憶が保管されやすく,接触と痛みを関連付ける学習が強化され身体イメージの変容を招いたと考える.セルフタッチを用いた介入方法は、自身の運動から接触の予期が生じるため,接触による不快な情動や痛みが生じやすい症例の介入の一助となる可能性が示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】
 発表にあたり,家族に口頭にて説明を行い,同意を得た.