第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S3] 神経系(下肢/体幹)

[S3-02] TWIST AND SPIN BOARDを用いた訓練は小脳性運動失調患者の歩行時の方向転換動作を改善する

*後藤 圭介1、塩田 葵1、木ノ上 拓也2、中里 瑠美子1、降矢 芳子1 (1. 東京女子医科大学附属足立医療センター、2. 東京都立大学)

【はじめに】小脳性運動失調患者の歩行中の方向転換動作に対してTWIST AND SPIN BOARD(大創産業株式会社)を用いた1セッションの治療により、運動イメージの心的時および歩行制御が改善した症例について報告する。
【症例】症例は40代男性。聴神経腫瘍の診断で、腫瘍が小脳と脳幹の圧排および水頭症を来たし、小脳性運動失調と認知機能の低下を示した。腫瘍摘出術後8日目の評価では、運動失調はSARA 11点、バランス機能はMini-BESTest 14点であった。認知機能は、HDS-R 27点であった(4桁の逆唱で減点)。歩行機能はTUGおよびimagined TUGを2回ずつ評価した結果、平均値はそれぞれ17.5秒、9.3秒であった。主観的評価は、"イメージがうまくできない"、"方向転換の際のスピードがイメージできない"という言語記述があった。
【病態解釈】腫瘍が小脳を圧排した結果、小脳機能が低下していた。小脳は遠心性コピーを受け取り、運動シミュレーションを実行するとされており、今回この機能が障害されていることが主要な病態と考えた。また、注意の容量の低下によって、動作中の感覚情報処理が充分に行えていないことが推測された。
【介入および結果】これらのことから、方向転換時の運動シミュレーション精度を向上させるアプローチを考案した。座面を高くした座位姿勢で、一側の足底下にTWIST AND SPIN BOARDを置き、足部の向きを他動的に変化させ、その方向に頭部・体幹を合わせるよう指示した(閉眼)。そして、"その足の向きだとどちらに方向転換しそうか"という対話から動作との関連性の学習を試みた。その結果、TUGおよびimagined TUGはそれぞれ18.9秒、16.0秒に変化し、TUGとiTUGの差が縮まった。主観的評価では"脚の動きがイメージできた"、"骨盤と脚の向きに意識して歩いた"という言語記述が聞かれた。また、方向転換時の体幹の過剰な動揺が減少した。
【考察】今回の1セッションの介入前後で、方向転換における運動イメージ、体幹制御が改善したことは、フィードフォワードおよびフィードバック制御が洗練された結果と考える。そして、本症例にとって我々アプローチは運動イメージおよび実際の運動制御を洗練させるきっかけとなったと考える。
【倫理的配慮(説明と同意)】本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。