第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S3] 神経系(下肢/体幹)

[S3-05] 右皮質下出血による異常感覚によって破局的思考を認めた症例に対する一考察

*田口 周司1、林 節也1、菅沼  惇一2、岩崎  拓也3、千鳥  司浩2 (1. 介護老人保健施設 山県グリーンポート、2. 中部学院大学看護 リハビリテーション学部 理学療法学科、3. 大垣徳洲会病院 リハビリテーション科)

【はじめに】 今回,麻痺側下肢に異常感覚が生じたことで,破局的思考に陥り反芻や無力感の強い症例を経験した.そこで,異常感覚への介入を実施した結果,破局的思考が軽減し,安定した立位・起立動作の獲得に至った為報告する.

【症例紹介】 発症8カ月経過した右皮質下出血を呈した左片麻痺の80歳代女性.麻痺側下肢BRSⅢ,MAS2で足関節クローヌスが強く,表在・深部感覚は中等度鈍麻.左足底接地時「足がビリビリして痛い」といった異常感覚(NRS10)を認めた.HADSが35点,TSKは46点,PCSは50点(反芻20点,無力感20点,拡大視10点)であった.起立時は前方への重心移動が乏しく,非麻痺側優位であった.立位荷重は右30㎏,左9㎏で把持物が無いと不安定であり,トイレは下衣操作が困難であった.

【病態解釈】本症例は,起立時に予測する膝関節屈曲角度に応じた足底圧情報が,実際に入力される感覚情報との間に不一致が生じ異常感覚が惹起されたと考えた.また,麻痺側下肢に対する不安や運動恐怖感が異常感覚を助長し,その経験の持続が破局的思考(反芻・無力感)に陥り,立位・起立が困難となったと考えた.

【治療介入】 起立時の予測される感覚情報と実際に入力される感覚情報の一致を図るため,閉眼座位で①膝関節に対する空間課題,②スポンジによる足底のへの接触課題,➂膝の空間情報と足底の接触情報を関係づける課題を実施した.その後,立位で前後左右への重心移動と荷重部位の認識課題を実施した.介入は1回30分を週に5回,3カ月実施した.

【結果】 介入後,NRSは4点 ,HADSが16点,TSKは37点,PCSは24点(反芻10点,無力感9点,拡大視5点)へと軽減し,「ビリビリは減った」,「自分で練習する」と異常感覚の軽減と前向きな発言を認めた.起立時は前方への重心移動および麻痺側下肢への荷重が増大(荷重比右20㎏,左19㎏)した.トイレは両手動作で下衣操作が可能となった.

【考察】 予測と入力される感覚情報に不一致が生じていた足底圧情報を関係づけたことで,異常感覚の減少が図れ,起立時の前方への重心移動や麻痺側の荷重量が増大し立位が安定したと考えた.また,異常感覚の減少が,不安や運動恐怖感を軽減させ,行為が変化した.結果,反芻と無力感が改善し破局的思考の軽減に繋がったと考えた.

【倫理的配慮】 症例には十分な説明を行い,同意を得た.