第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S4] 高次脳機能障害

[S4-02] 聴覚情報を介した左空間の細分化によって左身体無視が改善した症例

*須山 慎二1、中里 瑠美子1 (1. 東京女子医科大学付属足立医療センター )

【はじめに】
今回、左片麻痺と左身体無視、左空間無視に対し、聴覚情報を介した左空間の知覚を通して改善した経過を報告する。
【症例紹介】
右視床出血の70歳代、右利きの女性である。BRS上下肢Ⅴで随意性・分離性は保たれていたが、何か触れる際に過剰に握りこむなど体性感覚をうまく利用できない状態であり、背部の左右同時接触では左側を見落とすことが多かった。他動運動時には「動かされている感じがしない、わからない」と記述し、困っている様子を認めた。常に右方をボンヤリと見ており、座位は体幹が右方偏位していた。一方、自身の正面から左の対象物に対しては体幹を左方偏位させて自身の右空間で知覚しようとする様子が見られ、症例特有の代償戦略が見られたがその際、自身の姿勢は知覚困難であった。
【病態解釈及び介入方法】
下頭頂小葉における視覚-体性感覚情報の統合が変質し、身体イメージも変質しているが、体幹の代償が可能なため体性感覚における左空間は存在していると考えた。しかしそれに注意を向けられない状態と考えた。そこで体幹の代償が不要になる聴覚情報を介して左空間の細分化を図り、それを視覚イメージすることで視空間の構築につながり、体性感覚情報と統合されるのではないかと考えた。課題は閉眼下で身体周囲から発した音源を探索し、位置のイメージと実際の位置との比較照合を行った。
【経過】
はじめは左耳付近の音も「右耳付近の音」と知覚し、前後左右上下の音源もエラーを認めた。しかし徐々に「何となく違う感じ」がつかめ、正確な方向が知覚可能となった。同時に対象が左空間にあっても、体幹の代償は消失した。左上下肢に注意が向くようになり、手足で物に触れることも適切に可能となった。また左空間の対象物に戸惑う様子もなく注意が向けられるようになり、左足関節の他動運動時に「足首が動いています」と記述を認めた。結果、実用手足として使用可能となった。
【考察】
聴覚空間における自身の身体とそこを中心とした周囲の空間との関係性がつかめ、その位置関係を視覚イメージすることで自分の身体に注意を向けられるようになった。その根底には視覚-体性感覚情報の統合による身体の視覚イメージの適正化から運動イメージ想起が可能となり、結果として身体のありようを実感できるようになったことで、左身体無視も改善したと考える。
【倫理的配慮】
本発表に際して口頭にて同意を得た。