第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

オンデマンド配信 » 口述発表

[S4] 高次脳機能障害

[S4-08] 言語の学習性不使用が疑われた慢性期失語症者に対する認知神経リハビリテーションの試み ―共同行為としての会話における対話者の振る舞いー

*湯浅 美琴1、矢作 満2、稲川 良3 (1. JAとりで総合医療センター、2. 東京医薬看護専門学校、3. 水戸メディカルカレッジ)

【はじめに】喚語可能な有意味語があるものの、会話ではオノマトペや身振りに偏る慢性期重度失語症者に介入した。喚語に失敗した経験が蓄積し代償的表出が強化されただけでなく、会話を成立させるための過剰な推測や配慮も「言語の学習性不使用」を生じさせる一因と考えた。会話は話者同士で構築する共同行為である。STの振る舞いを調整することで、会話中の有意味語使用が増加するか検討した。

【症例】50歳台男性。X年に脳梗塞を発症し外来リハビリ継続。神経学的所見:軽度右片麻痺、右感覚障害。神経心理学的所見:失語症、観念運動失行。画像所見:頭部MRI(DWI)にて左MCA領域に広範な高信号域を認めた。

【言語・会話所見(X+29ヶ月)】TLPA意味カテゴリー別名詞検査正答数(以下TLPA):聴覚的理解138/200、呼称41/200。会話は噛み合わないが、症例は気づかず発話を続けた。表出例:「これ、よいしょよいしょ(運ぶ身振り)、シャシャシャ(草を切る身振り)、あるんだけど、むずかしいんだよね」

【介入】ベースライン期(A期2ヶ月)、介入期(B期5ヶ月)、除去期(A'期3ヶ月)からなるABAデザインを用いた。頻度は週1回(40分)とした。身近な話題に関する10分間の自由会話を毎回行い、自発的に表出された有意味語数(有意味語数)および新規に出現した語彙の累積数(新規語累積数)を計測し、中央分割法を用いて傾向を判定した。A期、A’期は通常介入(自由会話、刺激法による呼称練習)を行い、STは従来通り最大限推測、配慮した。B期では、自由会話、絵カードを用いた情報伝達練習を行った。STは過剰な推測や配慮をせず、可能な範囲で有意味語の表出を求めた。喚語が難しい場合には、STが音声提示し模倣を引き出すような場面を設けた。

【結果】有意味語数、新規語累積数ともにA期に比べB期で増加を認め、A'期でも維持された。伝わらないことに気づき伝達を修正する行為が増えた。TLPA(A期→B期→A’期):聴覚的理解138/200→141/200→143/200、呼称41/200→44/200→55/200。

【考察】STの振る舞いを調整したことにより、会話にて有意味語を使用する姿勢が構築された。また、会話の中で新規語彙を学習することが可能であった。言語機能の回復も促された。

【倫理的配慮】本人に説明し書面にて同意を得た。