Riabilitazione Neurocognitiva 2022

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[S5] 神経系(その他)

[S5-01] 舌の身体図式の変容により嚥下障害を呈した症例

*安藤 大地1、川上 隆三1、小出水 和也2、平川 善之1 (1. 医療法人博仁会 福岡リハビリテーション病院、2. 医療法人社団三友会 祇園デイサービスセンター)

【はじめに】
 口腔器官の運動麻痺は軽度であるが重度嚥下障害を呈した症例を経験した。舌の身体図式に着目し介入した結果、3食経口摂取獲得に至ったため報告する。
【症例】
 80歳代男性。診断名:右脳梗塞。介入当初は3食経鼻経管栄養。MASA:154点。標準ディサースリア検査では口腔構音機能が2.5点と僅かに筋力低下を認めるが、嚥下に必要な口腔器官の可動域は保たれていた。初回VF検査(35病日)では、先行期から口腔期までは異常を認めなかった。しかし食塊形成後、口腔相から咽頭相への移送困難がみられ、嚥下反射惹起に努力と時間を要し、嚥下後も移送した食塊の90%が咽頭残留していた。また舌の感覚では、前舌に対する触圧覚刺激を舌中央部との誤認がみられた。
【病態解釈】
 前舌の知覚情報が舌中央部で知覚されていたことから、感覚障害による身体図式の狭小化が示唆された。食塊移送の際には、舌尖と硬口蓋の接触は必要であり、さらに舌のアンカー形成が嚥下圧向上に重要である。しかし本症例は、身体図式の狭小化から嚥下時に舌尖と口蓋の接触不全が生じ、アンカー形成が不十分となった結果、口腔内圧を高めることができず、口腔相から咽頭相への食塊移送困難を来していたと推察した。そのため舌の身体図式を再構築し、実際の嚥下運動時にアンカー形成が正確に行えるよう、知覚経験を促す必要があると考えた。
【訓練】
① 舌へ触圧刺激を与えた箇所を舌の絵上に示す(弁別課題)。
② 水に浸したアイス棒を舌尖と上顎切歯根部で押しつぶし、出てきた水分を嚥下。
【結果】
 前舌の触圧刺激に対し正確な位置での表象が可能となった。VF再検査(77病日)では、舌尖と口蓋が切歯根部で接触しアンカー形成の改善を認めた。食塊移送も一度で咽頭層へ移送可能となり、3食経口摂取獲得に至った。
【考察】
 舌の感覚刺激による弁別課題を行い、脳内における舌の身体図式が再構築されたことで、舌中央部で形成していたアンカー形成が舌尖へと変化したことが、嚥下機能改善に寄与したと考える。また舌尖運動をアイス棒という目標物に向かって行い、冷水を嚥下する一連の運動を反復させ、実際の嚥下運動時に切歯根部へ舌尖が接触する知覚経験を促した。これにより求心性感覚統合が促通され、正しく認識できた舌尖を使用しての運動プログラムの円滑な再形成に繋がったと考える。
【倫理的配慮】
 所属法人および本人に研究について同意を得た。