第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S7] 整形外科疾患

[S7-03] 現象学的還元の明証性と運動療法
~膝蓋骨骨折後に歩行困難となった症例~

*恒石 剛章1、沖田 学1 (1. 医療法人新松田会 愛宕病院)

【はじめに】知覚そのものという内在的対象性は統覚を通して意識されておらず、知覚と存在が重なり原本的に意識されるといわれている。(フッサール1997)明証性のある内在的な意識に立ち戻るための学問的方法として現象学的還元がある。今回、歩行困難となった症例に対し現象学的還元に基づいて分析し、認知運動課題を行い改善したため報告する。

【症例】症例は80歳台女性で右膝蓋骨骨折の保存療法を行っていた。受傷から全荷重可能であったが、装具の膝伸展位固定を2週間要した。受傷後から3週間経過しても歩行時には身体の動揺が大きく、片側の腋窩を抱える介助を要した。歩行観察では両側下肢で接地時の前方動揺、小趾側への足圧偏位、踏切の不足、Trendelenburg徴候とDuchenne徴候の混在がみられた。歩調が乱れており、動揺も不規則であった。10m歩行(フリーハンド)は20.53秒26歩であった。

【病態解釈および治療アプローチ】病態を理解するために現象学的還元を実践し、分析を試みた。実在的な骨や筋、神経等に対する判断を控え、実際に経過している感覚を洞察した。すると、感覚障害は無いが足圧偏位や動揺の不規則さから、触覚の経過と身体の傾きの関係性に混乱が生じていることが考えられた。この問題に対し、足底の表面性状識別課題と立位で細長いマット(ストライプ)を使用した課題を実施した。課題中に「腰は真ん中にあるけど重みは動いている」と混乱した様子で発言し、他動的に腰部の位置を動かされているにもかかわらず、空間の変化は感じないのに重みの変化だけ感じてしまうとの訴えがみられた。これら課題を導入した二日後には介助なく見守りで歩行可能となった。10m歩行(フリーハンド)は25.90秒31歩となった。

【考察】筋や神経活動を前提とした自然科学的分析では、その活動の調整や生成の本質理解は不可能である。なぜなら、それが身体性を前提としているからである。つまり、足底の触覚や重心位置の「持続や広がり、変化」の感じ取りの基盤なしに外的な時間性や空間性を含んだ歩行の理解は不可能だからである。本症例でも運動課題遂行のために現象学的還元を行い、その内容をセラピストと相互理解する必要があった。

【倫理的配慮、説明と同意】対象者から動画撮影と発表に関して書面にて説明し同意を得た。また、個人情報保護の観点から匿名性に十分な配慮を行った。