第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

オンデマンド配信 » 口述発表

[S7] 整形外科疾患

[S7-05] 荷重時の不安感によって杖歩行の自立に難渋した大腿骨頚部骨折症例に対する介入経験

*磯江 健太1、松田 総一郎1、赤口 諒1、奥埜 博之1 (1. 摂南総合病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 立脚期の不安感や腰痛により杖歩行が自立できない大腿骨頚部骨折症例に対し,不安が生じる背景についての病態分析と介入を行ったことで,良好な改善を認めたため報告する.

【症例紹介】
 症例は右大腿骨頚部骨折後に人工骨頭置換術を施行した70歳代の女性である.著明な可動域制限はなく,MMTは右股関節屈曲・伸展3,膝関節伸展4であった.BBSは41点,10m歩行(杖使用)は15.3秒であった.杖歩行はMStに右股関節・膝関節は軽度屈曲位,体幹前傾位となっていた.立位最大荷重量は右36kg/左47kgであり「右は股関節がふわふわして体重が乗せにくい」と訴えた.疼痛は右股関節周囲に無いが,右腰部に訴えがあり安静時にNRS2,右荷重時にNRS6だった.また,右股関節伸展運動では腰痛の予期が生じ,股関節軽度屈曲位を中間位と誤認していた.介入中は杖歩行が可能であったが,立脚期の膝折れに対する不安感や腰痛の訴えのために杖歩行自立に消極的で歩行器を使用していた.

【病態解釈】
 術後の右股関節周囲への不安定さにより,右荷重時に股関節・膝関節は軽度屈曲位となり,膝折れの不安感に繋がっていた.そのため,脊柱起立筋・大腿四頭筋の過剰動員となり,腰痛の出現や股関節中間位への誤認が生じたと考えた.その結果,股関節伸展が不十分な歩行となることで立脚期の不安感や腰痛に対する予期をさらに強める悪循環に陥り,杖歩行の自立に至らなかったと考えた.

【介入と結果】
 本症例は立位荷重時の足底圧の左右差に注意を向ければアライメント異常を自覚することが可能であった.そこで,ステップ位で足底圧と股関節伸展角度を関連付ける介入を,左右比較を用いて実施した(40分,2日間).その結果,立位時の最大荷重は右42kg/左47kg,BBSは45点,10m歩行は12.9秒となった.股関節中間位を正しく認識可能となり,歩行時の腰痛はNRS3に改善した.「股関節がしっかりして体重が乗せやすい」と内省の変化を認め,立脚期の不安感は消失し,病棟内は杖歩行自立となった.

【考察】
 歩行時に不安感を訴える症例は多い.本症例は股関節情報の誤認が不安感という経験に繋がっていると考えた.そのような症例に対しては,荷重感覚とアライメント異常に関連した病態分析が有用である可能性が示唆された.

【倫理的配慮】
 発表に関して本症例に説明を行い書面にて同意を得た.