日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー13

2020年11月27日(金) 16:15 〜 16:45 第4会場 (1F C-1)

座長:花島 律子(鳥取大学 医学部 医学科 脳神経医科学講座 脳神経内科分野)

[AL13-2] 神経変性疾患とTMS

代田悠一郎 (東京大学 医学部附属病院 検査部)

経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation, TMS)は、経頭蓋直流・交流電流刺激(transcranial direct/alternating current stimulation, tD/ACS)等とならぶ代表的な非侵襲的脳刺激法である。TMSを用いることで、神経軸索に活動電位をもたらし神経伝導を調べることも、より弱い刺激を用いて閾値下の脱分極をもたらすことも可能である。前者は主に単発・二発刺激による神経興奮性検査に、後者は主に反復TMS(repetitive TMS, rTMS)による神経可塑性様長期効果の誘導に用いられている。神経変性疾患とは特定の神経細胞群に進行性の細胞障害・細胞死が生じる疾患である。多くの疾患で特徴的な異常タンパクの蓄積が見られるが、そのほとんどで詳細な分子病態は明らかでない。臨床的には疾患ごとに様々な運動障害・認知機能障害を呈し、障害を受ける脳部位と関連した徴候が見られる。このような神経変性疾患に(r)TMSを用いるにあたっては、主として1)神経興奮性検査を通じた病態解明・病勢評価、2)長期効果誘導を利用した治療、の二つの応用が考えられる。TMS単発・二発刺激法により特定の神経伝達物質機能と関連した興奮性が評価できるとされており、神経変性疾患においても応用が試みられている。また病勢が緩徐に進行する神経変性疾患においては、rTMSにより神経可塑性様の効果を誘導することができれば症状緩和に有効であると考えられる。TMS単発・二発刺激法に基づく興奮性検査は従来、一次運動野(M1)に対する刺激で得られる運動誘発電位(motor evoked potential, MEP)の振幅を評価することで行われてきた。すなわち主な評価対象は運動系に障害を有する疾患であり、神経変性疾患においてはパーキンソン病がその代表であった。パーキンソン病の病変は主として中脳黒質を中心とする大脳基底核回路であるが、大脳皮質の興奮性にも変化が見られるとされている。一方のrTMSによる治療応用の試みも、神経変性疾患ではパーキンソン病に対する応用を一つの軸に研究が展開されてきた。M1・補足運動野などのrTMSはパーキンソン病の運動症状緩和に一定の効果があると考えられている。従来のTMS疾患研究が主に運動障害を呈する疾患に対して行われてきたのは、TMSの効果を推定するread-outとしてMEPがもっぱら用いられてきたことが一因である。近年になりTMSの効果を直接頭皮脳波により測定するTMS-EEGが実装されるようになり、他の脳領域に関するTMS研究がさらに発展することが期待される。