日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー6

2020年11月26日(木) 15:20 〜 15:50 第4会場 (1F C-1)

座長:高松 直子(徳島大学病院)

[AL6-1] 脳神経外科医による最先端疼痛治療

齋藤洋一1,2, 細見晃一1,2, 柳澤琢史2,3 (1.大阪大学大学院 医学系研究科 脳神経機能再生学, 2.大阪大学大学院 医学系研究科 脳神経機外科, 3.大阪大学高等共創研究院)

脳神経外科医で痛みのスペシャリストというと、難治性疼痛に対する脳脊髄刺激療法および脊髄後根侵入帯破壊術(DREZotomy)をする医師であるが、今回は、非侵襲な反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)による一次運動野(M1)刺激、DREZotomy、および最近、研究している脳磁図によるDecNef(decoded neurofeedback)について解説したい。M1を電気刺激すると痛みが軽減するという事象は、日本の脳神経外科医である坪川博士が発見し世界に広まった。初期は電極を頭蓋内M1上に埋め込んで電気刺激していたが、最近はrTMSによる非侵襲治療が主流となり、世界的にみても電極を頭蓋内に埋め込む症例は激減していると推察される(Nat Rev Neurol 2015;11:290-9)。我々は帝人ファーマ(株)と在宅でも使えるrTMS機器の開発を目指してきたが、問題点も認識されたので、今回はrTMSによる疼痛治療の問題点を解説したい。DREZotomyは主に引き抜き損傷後疼痛に施行しており、周期性激痛で困っている症例には最適な治療であり、1mm間隔で後根侵入帯の瘢痕組織を熱凝固することで、長期に渡って良好な除痛効果が得られている。これは、脊髄の後根が引き抜けた部位の瘢痕組織が周期性激痛の原因であると考えられていることによる。DREZotomyはこの周期性激痛には著効するものの、持続痛はある程度残存することがある。この持続痛は、脳の痛みネットワークが感作され、不適切な可塑的変化が誘導されて発生していると考えられている。引き抜き損傷後疼痛の持続痛に対してM1刺激が有効なこともあるが(Neurosurgery 2011;68:1252-8)、十分な痛みのコントロールがされない症例も存在する。近年、ブレインマシンインターフェースの技術が発達し、非侵襲的に脳活動を計測し、機械学習の方法を用いることで、脳内の複雑な情報を読み解くことが可能になった。実際、functional MRIを用いて、疼痛の強さを脳活動から推定(Decode)できることが示されている。さらにdecodeされた情報を使ったneurofeedbackによって、痛みの情報を操作することも可能になると期待される。このような手法をDecNefと呼ぶ。我々はDecNefを用いた難治性神経障害性疼痛の病態解明と新たな治療法開発を目指している。具体的には幻肢痛の患者が幻肢の動きを想起したり、健常肢を動かす際の活動を脳磁図で捉え、その情報をデコードし、これを患者へフィードバックする事で感覚運動野に可塑的変化を誘導し、痛みを制御するDecNefの開発を行っている。例えば、デコードした情報に基づいて電動義手を動かせば、患者は幻肢を動かすつもりで、電動義手を操作することができる。この操作に習熟することで、患者の感覚運動野に可塑的変化が誘導される。また、デコードする内容を変えることで、可塑的変化を制御し痛みをコントロールできる。この脳磁図によるDecNefの試みを紹介したい(Nat Comm 2016 77:13209)。