日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー4

2020年11月26日(木) 13:30 〜 14:00 第3会場 (2F B-2)

座長:畑中 裕己(帝京大学医学部脳神経内科)

[BL4-2] 視覚誘発電位(VEP)

後藤純信 (国際医療福祉大学 医学部 生理学講座)

視覚刺激を与えると、視覚路(網膜から大脳皮質視覚野)に興奮が生じ、網膜や後頭部から非侵襲的に電気反応を記録できる。そのうち大脳皮質視覚野の電気反応である視覚誘発電位(VEP)について、ヒトの視覚情報処理の生理学的特性とVEPの基本的な刺激方法や記録方法、VEPを用いた視覚伝導路の電気生理学的診断アルゴリズムについて、記録上の注意点とともに概説する。臨床検査に多く持ちいられる白黒格子縞刺激を用いたパターン反転刺激は、1)網膜細胞や大脳皮質視覚野神経細胞の受容野を至適に興奮させられる、 2)一定の視野を選択的に刺激できる、3)空間的に左右対称であるため瞬時の反転で網膜照度を変えずに刺激できる(コントラスト刺激)、4)刺激パラメータ(輝度, コントラスト、チェックサイズ, 刺激頻度)を変化させて記録できる、などの利点がある。さらに、刺激頻度(時間周波数)を変えることで誘発波形が異なるtransient(TR)型VEPとsteady-state(SS)型VEPを記録することができる。特にTR型VEPは、視覚系が次の刺激に反応できる状態に回復する十分な時間間隔で刺激された場合に誘発される(刺激頻度3Hz以下)反応で、白黒格子縞パターン刺激では後頭部に陰性成分(N75)-陽性成分(P100)-陰性成分(N145)の3相波が記録でき、P100成分が最も安定し振幅も大きいため、その潜時や振幅を機能診断の指標として用いる。半側視野刺激では, 刺激と同側後頭側頭部にN75, P100, N145が出現し、刺激視野と反対側の後頭側頭部にかけて極性が逆転した振幅の低い三相波を認める奇異性頭皮上分布が起こる。これは、ヒトの視覚野の黄斑部に対応する部位が後頭葉内側面にあり、そこで生じた電流双極子の方向が刺激と同側の後頭部に向くことが原因と考えられている。VEPに影響を与える要因として、刺激視野(deg)、パターンの大きさ(min)、輝度(cd/m2)、コントラスト(%)などの刺激パラメータの変化や被検者の瞳孔径、性差、年齢、被検者の注意度や覚醒度、被検者の視力などが挙げられる。VEP記録は、電極間抵抗が5kΩ以下になるように、外後頭隆起から5cm上方の部位(MO)とその左右それぞれ5cm外側の点(LO, RO)および10cm外側の点(LT, RT)の5ヶ所に設置し、基準電極は前頭部正中線上で鼻根部から上方12cmの部位、接地電極はCzとする。増幅器周波数帯域は, 低域遮断フィルター1Hz, 高域遮断フィルター100~300Hz, 分析時間は250~300ms, 100回前後の反応を加算平均する。記録時は安楽椅子でリラックスさせ適宜休憩をいれながら再現性を確認するために左眼と右眼を交互に最低2回以上検査するように心がける。このように、パターン刺激を用いる利点、刺激パラメータの重要性(刺激パラメータでVEP波形が変化すること)、記録条件、記録時のトラブルの原因と対処法、について理解を深め、正常波形や異常判定の意義について判断できるようにしておくことが、VEPの臨床応用には重要である。