日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー7

2020年11月27日(金) 10:10 〜 10:40 第2会場 (2F B-1)

座長:叶内 匡(東京医科歯科大学 医学部附属病院検査部)

[BL7] 安静時自発放電

幸原伸夫 (神戸市立医療センター中央市民病院)

安静時自発放電を的確に記録することにより a)筋線維自体の異常興奮性 や b)末梢神経の異常興奮性 を知ることができる。正常では針の刺入時に陽性鋭波のような電位が数個持続して記録されるがすぐに消失する。また神経終末部に電極の先端があたると終板棘波や終板雑音が出現することがあるがこれらを除き、針を静止しても持続する電位は病的である。筋線維に由来する代表的なものとしては線維自発電位や陽性鋭波、ミオトニー放電、複合反復筋放電がある。末梢神経に由来するものとしては線維束攣縮電位やミオキミア放電がある。自発放電の認識にはリズムが最も大切である。
終板棘波endplate spikeは、振幅100~200μV、持続3~4 ms の陰性棘波で、速く不規則に放電する。針電極の近くに起源があるため、多くは陰性相に始まる。ポップコーンのはじけるときのようなリズムが特徴。この陰性電位は針の刺入が刺激となり誘発される単一筋線維電位あるいは筋紡錘電位と考えられている。
線維自発電位 fibrillation potentialは持続1~5 ms、振幅20~500μVで、通常、陽性の振れに始まる二相性または三相性の波形を呈し、シャープな音がする。単一筋線維の異常興奮で生じる。同一の筋線維による線維自発電位は比較的規則正しく繰り返され、規則的な放電パターンから終板棘波と鑑別できる。 陽性鋭波 positive sharp waveは急峻な陽性の電位に続いて緩徐で持続の長い陰性電位がみられるもので、線維自発電位と同じ単一筋線維由来。電極針が筋膜損傷部にあり、この位置で活動電位が終始するため陽性波となる。
線維束攣縮電位 fasciculation potential の多くは神経末端の異常興奮で生じる異常放電でMUPに近似した形をとる。発火パターンは不規則である。ミオキミア放電myokymic dischargeは前者が繰り返して出現する、あるいはいくつかのが組になって同時に出現するもの。ALSや神経根障害、放射線障害によるニューロパチー、あるいはMMNなどの軸索変性や脱髄疾患でみとめられるが、ミオキア放電は後2者で出現しやすい。
ミオトニー放電 myotonic dischargeは針電極の刺入を引き金として生ずる規則正しい電位の反復よりなり、陽性鋭波の反復する形のものが多くオートバイを思わせる特有な音が聞こえる。ミオトニー疾患でみとめられるが、臨床的にミオトニーを認めない皮膚筋炎、多発性筋炎、Pompe病、 myotubular myopathyなどの疾患でも出現する。
複合反復筋放電CRDは一群の単一筋線維が次々と放電し、その群放電が普通1 秒に5~100 回の範囲で反復することが多い。この放電は突然出現し、短期間一定の頻度で反復した後に突然消滅する。規則的な繰り返し音がきこえる。ペースメーカーとなる線維が1 個ないし多数の隣接線維の筋膜を直接興奮させサーキットの様になり群放電が起こる。神経疾患、筋疾患いずれでもみられ疾患特異性は低いが慢性の病的状態を示唆する所見である。