日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー8

2020年11月27日(金) 11:10 〜 11:40 第2会場 (2F B-1)

座長:関口 兼司(神戸大学大学院医学研究科 脳神経内科)

[BL8-2] 筋萎縮性側索硬化症における神経生理学的検査の役割

叶内匡 (東京医科歯科大学 医学部附属病院 検査部)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位運動ニューロン(UMN)障害と下位運動ニューロン(LMN)障害が全身で進行する変性疾患である。生化学的な診断マーカーは未だ確立しておらず、臨床所見と神経生理学的検査等を用いて診断する。LMN障害を診断するための検査としては何より針筋電図が有用であり、筋萎縮や筋力低下など臨床的LMN徴候が明らかでない筋においても異常を認めることはしばしばである。障害の活動性(進行性)を判断する上で参考となる情報も得られる。Awaji基準では臨床徴候と針筋電図異常はLMN障害として等価と位置付けられ、発症早期のrevised El Escorial基準による診断感度の低さに改善が図られた。診断の確からしさ(診断カテゴリー)は運動ニューロン障害がどの程度全身に広がっているかで判断するので、被検筋は脳幹領域、頚髄領域、胸髄領域、腰仙髄領域の4領域から満遍なく選ぶのが基本となる。また、Awaji基準ではALSに比較的特徴的な線維束自発電位を一定の条件下で急性脱神経所見と捉えることでLMN障害の診断感度を高めているが、線維束収縮の検出には超音波検査の方が優れているとの報告がある。神経伝導検査は、CMAP sizeがLMNの変性をある程度定量的に把握する簡便な指標となり、ALSに特徴的とされるsplit handの客観的把握にも有用であるが、神経伝導検査は類似疾患との鑑別においてより重要な役割があると言える。多巣性運動ニューロパチーを鑑別するためには伝導ブロックなどの有無を調べる必要があるが、病巣は局所的で末梢神経全長のどこにでも生じうるため、刺激は可能な限り近位まで行うことが求められる。F波は近位部の伝導状態を知る有用な手がかりを与えてくれるが、出現頻度はALSでもしばしば低下するため、出現頻度低下と近位での伝導ブロックを結び付けることには慎重な態度が必要である。球脊髄性筋萎縮症ではCMAPだけでなくSNAP振幅も低下するので、鑑別に役立つ。LMN障害では、その他、神経筋伝達にも異常をきたし、反復神経刺激試験(低頻度刺激)で漸減現象を認めることもあるが、僧帽筋における漸減現象の有無が頚椎症性筋萎縮症との鑑別に有用であるとの報告が複数ある。一方、UMN障害を診断するための検査としては経頭蓋磁気刺激検査があり、中枢運動伝導時間の延長などが見られる。Triple stimulation technique を用いると上位運動ニューロン障害の検出感度が高いことが知られているが、一般に広く普及しているとは言い難い。なお、臨床徴候も経頭蓋磁気刺激検査も残存しているLMNを介してしかUMNの状態を見ることができないという制限があるため、UMN障害のみを特異的に検出しうる検査(画像など)の確立が望まれる。