日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム22 てんかん外科と神経生理学の融合 (日本てんかん外科学会)

2020年11月28日(土) 10:20 〜 11:50 第7会場 (2F J)

座長:貴島 晴彦(大阪大学大学院 医学系研究科 脳神経外科学)、三國 信啓(札幌医科大学脳神経外科)

[CSP22-3] 迷走神経刺激療法の現状と将来

國井尚人, 嶋田勢二郎, 齊藤延人 (東京大学 脳神経外科)

迷走神経刺激療法(VNS)が国内で保険適応となってから10年が経過した。市販後調査ではレスポンダー率が約60%と欧米の知見の成績を上回る効果が示され、難治性てんかんに対する緩和的外科治療として不動の地位を確立したかのように思われる。一方で、欧米ではRNSやDBSといったニューロモデュレーション治療が相次いで保険適応となっており、これらが日本に導入される日もそう遠くはないと予想される。VNSは、これにより緩和的外科治療としての地位を脅かされることになるのか、それとも更なる発展を遂げてんかん治療の新たな地平を切り開いていくのか。実は、2020年9月時点で国内の累計新規植込台数は2000台を下回っている。ここ数年の伸び悩みは、新規抗てんかん薬の相次ぐ上市によるVNSの先送りがひとつの要因と考えらえるが、根本にはVNSが依然として抱える「とらえどころのなさ」の問題があるように思われる。今後VNSが更に普及していくためには、VNSの作用機序解明やネットワーク指標を用いた治療反応群の予測といった神経生理学的側面の追究が不可欠と思われる。しかし、VNSの伸びしろは決して小さくない。2017年には心拍感知型のAspireSRが導入され、より効率的な刺激や刺激頻度の把握が可能となった。AspireSRへの交換による発作コントロールの改善を示す報告も多い。さらに、次世代機であるSenTivaがすでに国内で薬事承認されている。新たに搭載された徐脈の感知システムやジャイロにより、SUDEPのリスク評価が行えるようになる。このような多角的生体情報モニタリングシステムの搭載は、VNSの概念を、体内植込み型生体モニタリング/モジュレーションシステムという、てんかんの枠を超えた治療デバイスに変化させる可能性を秘めている。また、VNSによる付随的効果への関心も高まっている。欧米では難治性うつに対して以前より保険適応であり、近年新たなエビデンスが蓄積してきている。また、心不全に対する治療や抗炎症作用も注目されている。さらにVNSと同期させたリハビリにより運動機能の改善が促進するという報告もある。欧米を中心に経皮的VNSも広がりを見せている。VNSによる治療効果拡大に期待が高まるが、我々はデバイスが独り歩きしないよう科学的な検証を続けていく必要がある。