日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

教育講演

教育講演19

2020年11月28日(土) 14:45 〜 15:45 第2会場 (2F B-1)

座長:松本 理器(神戸大学脳神経内科)

[EL19] 脳磁図計測の基本

長峯隆 (札幌医科大学 医学部 神経科学講座)

脳磁図計測は、ミリ秒単位の時間解像度、数ミリメートルの空間解像度を有している。計測、推定の推定精度を担保するには、基本的条件の理解が重要である。
【生体磁場】興奮性細胞である心筋、筋肉、神経の細胞膜電位変動に由来する電流束周囲の「変動磁場」と、体内に混入した磁性体による「定常磁場」がある。
【磁場誘導】電流の方向を右ネジの進む方向として、右ネジの回る向きに磁場が生じる。普及している脳磁型の磁束コイルは頭表に対しての水平配置が主流であり、頭表に平行な電流の向きを検知する。
【ニューロンの電気活動】神経系のニューロンには、持続10ミリ秒で軸索を移動する活動電位と、100ミリ秒単位で経過する細胞体周辺に固定したシナプス後電位が発生する。
【集合電位発生】頭蓋外計測点までが数センチメートルであり、検出可能な信号の源は、ミリメートル単位の軸索断面や皮質層の中にある集合電位でOpen field になっている。尖頂樹状突起が脳表に垂直に整列している大脳皮質のシナプス後電位は多少時間同期がずれても記録できる。頭蓋外では、時空間の同期がある人工的な電気刺激に対して誘発される末梢神経の神経束や脊髄神経路の活動電位に限定される。
【電流源仮定】大脳皮質内のシナプス後電位に伴う尖頂樹状突起内の電流経路は、頭蓋外の記録点間距離に比して短く、等価電流双極子(Equivalent current dipole: ECD)のモデルが広く採用される。末梢神経束などの活動電位は、進行する活動電位の前後境界面の2つのECDによるQuadrupoleとして扱われる。
【脳溝と脳回】頭表に平行な電流に誘導された磁場を検知することから、脳溝のECD活動を特異的に記録する。脳波は、脳回の活動も検出する。
【生理学的電位分布とECD】人工的な電気刺激に誘発される一次感覚野の反応やてんかん性放電は、大脳領野の活動中心から周辺に勾配をもつ電位分布をとり、この活動に由来する頭蓋外の電磁場分布は、単一ECDによるものと近似できる。
【電位分布と磁場分布】電流源周辺の媒体は不均質であり、電気抵抗、物質境界の形状により、電位分布は対称的にならない。磁場分布は媒体に影響されない透磁率に従うため、歪みを生じず、局所に限局した対称的なダイポーラー分布をとる。
【ECD推定】実測データでは、ECDの数の想定が電流源推定の第一段階となる。分布が狭く、脳溝のECDのみ想定する脳磁場計測は、ECD数限定が行いやすい。時空間的な活動継続性などの生理学的先見知見を加えると、複数ECDの分離推定が可能となることがある。
【計測環境】目的とする神経磁気信号以外の自然環境、計測装置、被験者に由来する磁場変動は、計測の妨げとなる。他施設の先行計測などを参考に信号強度を仮定し、同一計測環境における雑音強度を事前に計測して、信号雑音比の推定を行ない、必要に応じ計測課題の修正を行う。