日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ランチョンセミナー

ランチョンセミナー1 新型コロナウイルス感染症-治療戦略と感染予防対策

2020年11月26日(木) 11:50 〜 12:50 第1会場 (2F A)

座長:齋藤 貴徳(関西医科大学整形外科学講座)

[LS1] 新型コロナウイルス感染症-治療戦略と感染予防対策

宮下修行 (関西医科大学・内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)

 2019年12月から中国の湖北省武漢市で発生した原因不明の肺炎は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因であることが判明した。その後感染は急速に拡大し、1月30日にWHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。コロナウイルスの中ではSARS-CoVと同じベータコロナウイルスという亜属に分類される。受容体結合遺伝子領域の構造は、SARS-CoVの構造と非常によく似ており、細胞侵入に同じangiotensin converting enzyme-2受容体を介する。中国の4万4,672人のSARS-CoV-2感染症患者のデータからは、中国の人口分布と比較し20歳未満の若年層の感染者が少ないことがわかる。本邦でも同じ傾向であるが、中国と比較して20代~30代の感染者が多いのが特徴である。しかし、これは10代以下の若年層がSARS-CoV-2感染症に罹患しないというわけではなく、若年層の多くが無症候性感染者または軽症であることから診断に至っていない可能性が推測されている。したがって、症状の乏しい若年層から感染が広がっている可能性がある。さらに、serial interval(一次感染者の発症から二次感染者の発症までの間隔)は潜伏期よりも短いと算出されており、発症前にウイルス排泄量のピークがあり感染を拡大している。重症度は、中国のデータによると81%が軽症、14%が重症、5%が重篤であった。すなわち、80%以上の患者は無治療で治癒することから、SARSやMERSと比較して感染頻度や疾患重症度、致死率などが大きく異なる。40代までは重症化は少なく、50代から年齢が高くなるに従って致命率も高くなっていく。また、基礎疾患のある患者でも基礎疾患のない患者と比べて明らかに致命率が高い。SARS-CoV-2感染症の診療で最も重要なポイントは、医療従事者の感染を起こさないことである。SARSやMERSは病院内感染症を起こしやすいことが知られており、病院という閉鎖空間で、特に患者と近距離で接する機会の多い医療従事者はリスクとなる。各種コロナウイルスに感染した患者をケアする際に、感染リスクを低下させる身体的距離を定量的に評価する目的で2万5,697例を対象とした比較研究44件についてシステマチックレビューとメタ解析が行われている。感染を防ぐ身体的距離は、1m未満に比べ1m以上でSARS-CoV-2感染リスクの有意な低下が認められた(aOR 0.18)。さらに身体的距離が離れるにつれて感染防止効果は高まることが分かった(1m延長するごとの相対リスク(RR)の低下2.02)。フェースマスクについても着用することで感染リスクが有意に低下(aOR 0.15)。使い捨てのサージカルマスクと比べ、N95および同等のマスクを着用した場合、感染リスクの低下はより顕著であった。眼の保護と感染リスクの低下についても有意な関連が認められた(aOR 0.22)。本セミナーでは、この11カ月で集積された知見をもとに今後の治療戦略について言及する予定である。