日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ランチョンセミナー

ランチョンセミナー19 不眠症 共催:MSD株式会社

2020年11月28日(土) 12:15 〜 13:15 第5会場 (1F C-2)

座長:木下 利彦(関西医科大学 精神神経科)

[LS19] 睡眠障害の診断と最新治療~オレキシン受容体拮抗薬を含め~

平田幸一 (獨協医科大学/獨協医科大学病院臨床医学)

 睡眠は、身体や脳の休息、記憶の固定・増強などに働くほか、動物実験からは睡眠中に有害物質や不要な情報などの除去を行うことが示されている。さらに、睡眠は年齢とともに変化を遂げ、各臓器の機能の維持発展にも関与している。
 しかし、加齢や疾病にともない睡眠障害が生じ、その睡眠障害が新たな臓器障害、すなわち併存症を作る。また、とくに高齢男性において睡眠の質の低下、入眠困難、睡眠効率の低下、睡眠時呼吸障害などの睡眠の問題とフレイルとの関連も報告されている。前述したように高齢者では併存症が多くみられ不眠をきたす原因となるが、睡眠障害が先か、併存する疾病が先かの見解についても現在では高血圧などの生活習慣病が存在することによって睡眠障害が生じ、またさらにそれが高血圧などを悪化させるというデータが蓄積されてきている。
 脳細胞の老化・変性に伴う睡眠構築の変化、あるいはそれに重畳して生じる、アミロイドベータ、Tauやαシヌクレインの沈着は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症そしてパーキンソンにおける睡眠障害を加速させ、さらにそれがまた睡眠障害を誘う。パーキンソン病やレビー小体病ではレム睡眠行動障害が疾患発症前のマーカーになるとされており、繰り返しになるが睡眠の質の低下や睡眠不足による睡眠障害は脳内アミロイドβ蛋白のクリアランス低下をきたしアルツハイマー病リスクを増加させるとの報告もある。
 現時点で、睡眠薬としてはベンゾジアゼピン系睡眠薬(benzodiazepine drug;BZD)、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬が用いられている。当然のことではあるが、現在までの睡眠薬と認知症に関するデータはBZD睡眠薬服用がほとんどであったので、前方視的な認知症発症の関連性に関する研究のほとんどはBZDに関するものであり、研究自体に大きなバイアスがあると考えざるを得ない。しかし、一方で眠れないならBZDを第一選択に投薬するということは現時点では不可能に近いことになっているのは事実である。
 このように、common diseaseである睡眠障害は加齢に伴うその他の疾患と関連が深い。前述したように睡眠障害と認知症をはじめとする神経変性疾患との関わりを示唆する報告が多々あり、まさに今国民の高齢化が社会的問題となりつつある現代社会では、睡眠の重要性の啓発、そして不眠症の予防、とりわけどのように治療するか戦略的に取り組む時であるといえよう。