日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム17 F波からみた運動療法への展開

2020年11月27日(金) 15:00 〜 16:30 第7会場 (2F J)

座長:鈴木 俊明(関西医療大学大学院 保健医療学研究科)、淺井 仁(金沢大学医薬保健研究域 保健学系 リハビリテーション科学領域)

[SP17-1] F波からみた一側肢の運動が対側肢へ及ぼす影響

嘉戸直樹1, 鈴木俊明2 (1.神戸リハビリテーション福祉専門学校 理学療法学科, 2.関西医療大学大学院 保健医療学研究科)

 随意運動中には、その運動に直接関与しない筋にも意図しない収縮が生じる場合がある。例えば、脳血管障害片麻痺患者の連合反応は、随意運動中に麻痺側上肢や下肢に出現することが多く、これにより麻痺側の選択的な運動は阻害される。また、随意的な筋収縮に伴う他部位への促通性や抑制性の効果は、運動療法のなかで中枢神経系への入出力を調整する方法として利用されている。このように、理学療法をおこなう際には、一側肢の運動が他部位に及ぼす影響について理解しておく必要がある。先行研究では、H波やF波、経頭蓋磁気刺激により誘発される運動誘発電位などを用いて解析が試みられており、随意運動中には共同筋とは直接関係をもたない脊髄前角細胞や大脳皮質運動野の興奮性が増加することが報告されている。また、このような促通性の影響は、運動開始からのタイミング、筋収縮の強度、筋紡錘の数量に影響されることも明らかになっている。
 一方、運動療法において獲得を目指す動作は、簡単なものから難しいものまで多岐にわたる。とりわけ難しい動作を実施する際には、その動作には直接関与しない筋の収縮が生じるような現象がみられる。また、練習により動作が自動化した段階では、そのような現象はみられなくなる。そこで、我々は一側上肢の運動課題における運動の難度の違いが対側上肢脊髄前角細胞の興奮性に及ぼす影響についてF波を用いて検討し、難度が高い上肢の随意運動時には対側上肢脊髄前角細胞の興奮性が増加することを報告した。さらに、難度の高い一側上肢の運動を練習することで生じる対側上肢脊髄前角細胞の興奮性の変化についてF波を用いて検討し、難度が高い運動においても、練習により運動が正確に遂行できるようになると、一側上肢の随意運動に伴う対側上肢脊髄前角細胞への促通性の影響は減弱することを報告した。このように、一側肢で難しい運動を実施すると対側肢への促通性の影響は増加するものの、練習によりその影響は減弱する。
 動作を改善するには、まず正確な動作の分析が必要となる。このなかで、動作に直接関与しない筋への影響については、運動学的な解釈が難しいため神経生理学的な解釈が求められる。一側肢の運動が他の肢へ及ぼす促通性の影響は、収縮強度や運動難度が高い場合に出現しやすく、学習初期において顕著となる。このような条件は、脳血管障害片麻痺患者における連合反応の出現のきっかけとなる運動にもよくあてはまる。不要な筋収縮が動作を阻害するような場合には、まず、きっかけとなる運動を正確に捉える必要がある。また、運動療法では、症例に応じた収縮強度や運動難度の設定が重要になる。動作中の一側肢の運動に起因する対側肢の不要な筋収縮を減じるには、収縮強度が低い簡単な運動から始め、対側肢への影響を観察しつつ徐々に収縮強度や運動難度を上げるようにする。