日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム2 発達障害の事象関連脳活動:事象関連電位を中心に

2020年11月26日(木) 08:10 〜 09:40 第7会場 (2F J)

座長:稲垣 真澄(鳥取県立 鳥取療育園)、板垣 俊太郎(福島県立医科大学神経精神医学講座)

[SP2-4] 成人期発達障害のMismatch Negativityと脳画像解析

板垣俊太郎1, 戸田亘1, 松本純弥1,2, 佐藤彩1, 大西隆3, 伊藤浩4, 石井士朗4, 志賀哲也1, 松本貴智1, 三浦至1, 矢部博興1 (1.福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座, 2.国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部, 3.ヤンセンファーマ株式会社 メディカルアフェアーズ本部, 4.福島県立医科大学 医学部 放射線医学講座)

注意欠陥多動性障害(Attention deficit hyperactivity disorder: ADHD)は多くの場合、小児期に診断され治療を受けるが、一方で成人期にADHDと診断される患者も存在する。ADHDは、注意散漫、集中力低下、課題遂行困難など、他のさまざまな精神障害でも認められる極めて非特異的な症状を示す。したがって成人ADHD患者が、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder : ASD)、双極性障害、うつ病、不安障害、強迫性障害など他の疾患と誤診されることも多い。DSM-5では成人のADHDの診断について1)ADHD診断に必要な症状の数を成人では6から5に減らし、2)症状発現時期を7歳以前から12歳以前となったため過剰診断の懸念が高まった。また、Cross-Disorder Group of the Psychiatric Genomics Consortiumの研究によればADHDとASD間の相関遺伝率は低いことが判明しているが、DSM-5にはASD患者を除外する基準は含まず、このことからも成人期ADHDの過剰診断のリスクがある。その一方でADHDやASDの病態は不明な部分が多く、診断は依然として精神症候学に基づいており、明らかなバイオマーカーは確立されていない。その一方でADHDの病態生理の知見は蓄積されてきている。ミスマッチ陰性電位(Mismatch Negativity: MMN)を用いた電気生理学的研究においては、ADHDにおけるMMNの振幅減衰の発達的変化が先行研究により報告された(Winsberg, 1993; Rothenberger, 2000; Oades, 1996)。画像研究としてはADHD 治療薬であるメチルフェニデートの薬理作用やモデル動物からの知見から、前頭前野や大脳基底核のドパミン機能異常、特に線条体におけるドパミントランスポーター(DAT)の機能異常とADHDとの関係が報告された(Fusar-Poli, 2012)。更に、グラフ理論解析を用いたコネクトーム解析において、ADHDにおける脳ネットワーク異常が示された(Cao, 2014)。 これらのADHDの病因に関わる生物学的マーカーは、ADHDの診断に有用である可能性があり、我々はADHDと関連があると報告されているMMN、ドパミントランスポーター密度、MRIを用いた脳内ネットワークのトポロジーの三つの方法を用いて、成人ADHD、成人ASD、定型発達群を対象に診断バイオマーカーの開発を試みている。昨年は、全25例を一群とし、拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging : DTI)の新たな解析法であるlocal connectometryによって示される白質線維障害とMMN 潜時・振幅との相関解析を試みたところ、脳内各部位の線維束のConnectivityとの正の相関を報告した。今年度は長時間測定によるN=41〈ADHD14、ASD9、HC18〉のMMNの3群比較の結果を報告する。演題発表に関連し、開示すべきCOI:ヤンセンファーマ株式会社より契約のもとに研究資金提供および労務提供を受けた。尚、本研究は本学倫理員会の承認を得ており、プライバシーに十分配慮した。